ドキュメンタリー映画『ニーナ・シモン 魂の歌』感想。空白の期間、彼女に何が起こっていたか?

2015年5月5日放送の「たまむすび」で町山さんがご紹介していた、ドキュメンタリー映画『ニーナ・シモン 魂の歌』を観ました。

原題は『What Happened, Miss Simone?』

「ミス・シモン」に何が起こったか?

歌手であり、ピアニストであり、人権活動家でもあった彼女に何が起こったのか?類まれな才能を持った一人の黒人女性が、一生をかけて戦い抜いた、魂の軌跡でした。

 

『ニーナ・シモン 魂の歌』あらすじ・出演者情報

あらすじ

人権活動家でもあった伝説の黒人女性歌手ニーナ・シモンの生涯を紹介したドキュメンタリー映画です。

ポップス、クラシック、ソウルなど多様なジャンルの要素を取り入れた独自の音楽で1960年代に人気を集めたシモンは、後に黒人公民権運動に参加し、メッセージ性の高い楽曲を次々と発表するようになる。

しかし、段々に公の場から姿を消してしまう・・・そして、復活。

その激動の人生を綴っています。

監督は「マリリン・モンロー 瞳の中の秘密」のリズ・ガルバス。第88回アカデミー賞の長編ドキュメンタリー部門にノミネートされました。

出演者情報

ニーナ・シモン
スタンリー・クラウチ
ディック・グレゴリー
ヒュー・ヘフナー

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ニーナ・シモン〜魂の歌
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『ニーナ・シモン 魂の歌』心だけは誰にも奪えない。ニーナの真意とは?

ニーナ・シモンを紹介するきっかけとして、町山さんがこんなエピソードを紹介していました。

町山さんが「たまむすび」で紹介した、「Selma」(邦題「グローリー/明日への行進」)と言う、キング牧師の公民権運動を扱った映画、この主題歌「グローリー」がアカデミー主題歌賞を取った時、作曲家のジョン・レジェンドが、こんなスピーチをしたそうです。

『アーティストとかミュージシャンとか画家とか芸術家っていうのは、自分たちが生きている時代を自分の作品に反映させるのが使命なんだ。でも、それはニーナ・シモンから教えられました。彼女が言った言葉です』

このニーナ・シモンが、このドキュメンタリーの主役なのです。

60年代のジャズシーンをその実力と大いなるバイタリティーで活躍したニーナは、公民権運動に傾倒し、「セルマの行進」にも参加しているほどでしたが、70年代に忽然と公の場から姿を消します。

それゆえ、町山さんも彼女を本格的に知ったのは80年代に入ってからでした。

シャネルのCMで彼女の曲が流され、リバイバルヒットしたのです。

このリバイバルがあったその時まで、いったいニーナはどこで何をしていたのか。

それがこの映画の原題「What Happened, Miss Simone?」です。

南部出身で黒人であること、女性であること、マイノリティーである怒りを抱えながら、姿を消していた歌姫は、誰にも心だけは奪われない、孤高の人生を歩んでいたのです。

『ニーナ・シモン 魂の歌』公民権運動の女神は叫び続けていた!

ニーナ・シモンは、南部のすごく貧しい黒人家庭に生まれました。

当時の黒人たちのコミュニティには、必ず教会があり、そこでは自由な音楽が育まれていました。いわゆる、黒人霊歌やジャズ。

彼女も、母親に教会に連れていかれ、そこでピアノに出会います。

ニーナ・シモンは天才的だった

町山さん曰く、「ものすごい天才的だったんで」、白人のピアノ教師の資金援助を受けて、名門のジュリアード音楽院に進みました。
最初に目指したのは、クラシックのピアニストだったんです。

ジュリアードでも、頭角を現していた彼女ですが、演奏家へのステップであるオーディションには受かりませんでした。

理由は一つ。

黒人だから。

公民権運動の前後、特に人種差別の激しい南部での黒人の立場は、本当に想像に絶するものだったと思います。

映像の途中でも、いわゆる「吊るされた」映像が出てきますが、その遺体の周りで、白人たちが笑っている顔は、常軌を逸しています。

黒人たちが、自分たちの気持ちを吐き出すために、ジャズは生まれたと言われています。

ニーナの「叫び」は、ピアノと言う楽器を手にした時に始まったのだと思いました。

クラシックピアニストの夢を絶たれた彼女は、生活のために、夜の酒場で弾き始めます。

当然のことながら、そこではなんでもあり。

リクエストに応えて、なんでも弾き、歌いました。

町山さんも仰っていましたが、ビートルズであっても、ロックであっても、彼女は結局自分の音楽にしてしまう。

「ニーナ・シモン・ミュージック」って町山さんは仰ってましたが、逆にジャンルを分けられない天才だったのです。

彼女をスターにしたマネージャーである夫と、DV

その彼女がスターになっていったのには、類まれな才能をマネージャーである夫が精力的に、「売った」からでもありました。

彼は警察官だったのですが、彼女のマネージャーに専念するために、辞めるほどでしたが、同時に彼女を力で支配する、DV加害者でもありました。

不思議なのは、ニーナは夫と長い間離婚しなかったことです。

町山さんは、虐待を受け続けていたために、DV依存症になっていたと仰っていました。

上手く言えないのですが、映像のニーナを観ていると、どこかいつも緊張していて、そして孤高です。背中をピンと伸ばして、眼光がするどく、きつい言葉を吐いてくる。でも、品を失わずに、いつも女王様のようでした。

夫はその彼女の力を、暴力であっても弱くさせる刃物であったように思います。自分でも抑えきれない怒りを、夫の暴力が止めていた。理不尽でも、その力が必要だったのかもしれません。

公民権運動と『Mississippi Goddam』

後に、キング牧師などと共に、公民権運動に没頭していた時、有名な『Mississippi Goddam』と言う、黒人迫害を責める曲を発表していますが、これが非常に明るく、テンポの良い、なにか鼻で笑うような曲なんです。

彼女の怒りが激しすぎて、強すぎて、笑うしかない。

そんな彼女が公民権運動に没頭し、戦士となっていく様は、ピリピリと痛むような感覚でした。

『Mississippi Goddam』はアルバム『Moon Of Alabama』や『Don’t Let Me Be Misunderstood』に収録されています。

『ニーナ・シモン 魂の歌』70年代、彼女はどこにいたのか?

ニーナ・シモンが姿を消していた70年代。

理由はありました。

夫のDVの依存症になっていたこと、68年にキング牧師が暗殺されたこと、アメリカがベトナム戦争に参加していたことなどなど。

映画の中でも、「もう私は本当にこの国には疲れたの」と言って、アメリカを飛び出し、カリブ海にバルバドスと言う国へ移住します。

そこは黒人奴隷だった人たちが政治支配をしている国でした。

そこから、さらにアフリカのリベアに移住。ここもアメリカの黒人たちが開放されて、一部がアフリカに帰って造った国です。

まるで自分のアイデンティティを探しているみたいでした。

娘への虐待

しかし、自由であったにも関わらず、今度は娘を虐待します。

後にわかったのですが、双極性障害を発症していました。

娘は離れてしまいます。

最終的には、そこからスイスやフランスへと放浪の生活をしていますが、常にピアノはありました。それが生活の糧にもなっていました。

音楽は時として、言葉であり、心でありと言いますが、彼女にとっては、ピアノは唯一の家族であったのかもしれません。

どんな時でも、鍵盤をたたけば、返ってくる音がありました。

ピアノだけは、彼女を裏切らない、愛しい友達。

彼女が、本当に心のよりどころにしていたと思うものは、やっぱりピアノだったと思います。

どの曲を聴いても、ピアノの音がクラシックの響きなんです。これは、町山さんも指摘してました。

テクニックのレベルが高いのだと思います。だから、どんな曲でも絶対に芯があって、崩れない。そして、音が本当にきれいです。

きっと、彼女はピアノに向かっているときだけは、本当の言葉を喋っていたのではないかと想像しました。

ニーナ・シモンがもしも黒人じゃなかったら・・・。

ドキュメンタリーの中では、そんな質問は誰もしていませんが、やはり、問うてみたくなりました。

「もし、黒人に生まれていなかったら?」

書いてみるとものすごく「愚問」だな、と思いますが、恐らく彼女は夢を果たし、クラシックのピアニストとして、今や世界中で弾いていたかもしれません。

同じようにジャズを歌っていたとしても、黒人であることより、楽な生き方はできたかもしれません。

それでも、もし、そんな質問を投げようものなら、きっと怒り狂って罵倒するか、ものすごく冷静に笑い飛ばすかしそうで、そのことにホッとします。

彼女の類まれな才能を、この人生だから生かせたのかもしれないと、映画を観て思うからです。

自分のアイデンティティに疑いを持っている人に観てほしい。

今の時代、完全に差別が無くなっているとは言えませんが、それでもニーナの時代ほど、肌の色やアイデンティティについて、苦しむことは無いかもしれません。

だからこそ、自分の「カラー」にこだわってほしいと思いました(それは肌の色という意味だけではなくて)。

自分のルーツを知って、そのことに自信と誇りを持って生きていきたい。そんな強さを与えてくれるドキュメンタリーでした。

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ニーナ・シモン〜魂の歌
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画像出典:IMDb “What Happened, Miss Simone? “

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前川クニコ

前川クニコ

「言葉」で伝える世界に魅了されてライターになりました。リーディング・パフォーマンスもやっています。面白さが伝わる記事を目標に、今日も書いてます。