今回は、「アメリカ流れ者」で町山智浩さんが2017年4月4日に紹介されていた『T2 トレインスポッティング』の感想です。
1作目が良すぎた映画の続編って、なんだか見るのが怖いような気がしてどうなんだろうと思ってしまう方も多いと思います。T2もその法則で未鑑賞の方も多いのではないでしょうか。
早速どんな映画か紹介して行きますのでそんな方々も参考にしていただければ幸いです。
目次
『T2 トレインスポッティング』あらすじ・出演者情報
あらすじ
20年前に薬物取引で手に入れた大金を一人で持ち逃げして以来離れていた故郷に、再び戻ってきてしたレントン。そこには当時つるんでいた仲間たちがいて、それぞれが相変わらずの体たらく。大人になりきれなかった4人の運命が、再び交差して行きます。
登場人物
スパッド – ユエン・ブレムナー
サイモン / シック・ボーイ – ジョニー・リー・ミラー
ベグビー – ロバート・カーライル
ベロニカ – アンジェラ・ネディヤルコーヴァル
『T2 トレインスポッティング』町山さん解説。高まるスコットランド独立運動
前作から20年の歳月を経て、スコットランドの様子はかなり変わったようです。町山さんの解説を見るまで知りませんでしたが、2000年以降はかなり景気がよくなっているようです。
前作の時はジャンキーだらけだったような汚い場所が、今作では景気回復に伴って街全体がクリーンな印象になっています。さらに様々な人種の人々が移住してきたりもしていて、そんな上向き景気・グローバル化の中で4人は完全に取り残されてしまっています。
また、イギリスEU離脱の動きによってポンドの相場が下降傾向になっているということもあり、スコットランドの独立への動きは高まっているようです。実際にスコットランド国民党の代表議員もそのような発言をしています。今作ではそんな国の情勢も反映しつつ、世間の変化に翻弄されながら生きる中年4人の葛藤が見事に描かれています。
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以降ネタバレ含みます!未鑑賞の方お気をつけください!
『T2 トレインスポッティング』1作目のファンならたまらない!前作から20年たっても大人になれないクズたち
あまり上手く生きていくことができないまま、身体だけ大人になってしまった4人ですが、クズはクズなりに楽しく暮らしているという訳ではなく本当にただただ社会不適合者なおじさんたちになってしまっています。
スパッドは妻と子供に見捨てられ孤独に打ちひしがれ自殺しようとしていました。シック・ボーイは売春と恐喝で食いつないでいて、ベグビーは刑務所に服役中です。
そんな成長しない4人ですが、今作では1作目であったシーンのオマージュが散りばめられていて、「あの時からはこんな風に変わったのか」というのがわかるので面白いです。
冒頭からイギー・ポップが鳴り響き、一気に前作の記憶が蘇りテンションあがりました。
前作でもレントンとシック・ボーイがスコットランド分離派のサッカーチームが勝った試合のビデオをなんども見ていましたが、今作では若いブルガリア人の娘ベロニカに「そんな過去の栄光にすがってどうするのよ!」と一喝されてしまいます。
あの頃持っていた反骨精神のようなものは消えてはいないものの、やはり皆しっかり年はとっていて時代は進んでいるのだと感じざるを得ません。
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『T2 トレインスポッティング』この世に生きる人は皆何かの依存症
みんなツイッターやインスタグラム、フェイスブックなんかに夢中になっている、結局みんな何かに依存していきているんだと熱弁するレントンの姿が非常に印象に残っています。
確かにスパッド、シック・ボーイ、レントンはヘロインにはまっていたジャンキーですが、薬をやらないベグビーは誰彼構わず殴りまくる暴力中毒です。しかもベグビーの猟奇的でめんどくさい性格は今作ではヒートアップしています。
このようにみんな薬物をやらなくたって結局何かに依存し、それに自我を蝕まれながら生きています。SNSでの人気取りのために犯罪に手を染めたり、過激なことをして自らの人生を狂わせてしまう人々を見ていると、SNSも薬物と同様人をダメにしてしまうということは明白です。
別に薬物を肯定する訳ではありません。特にヘロインなんかは使用者を廃人にしてしまう凶器だと思います。でも薬物中毒者たちを馬鹿にできるほど自分は何にも依存していない精神的に自立した人間かと言われるとどうでしょうか。薬物が別の何かにすり替わっているだけではないでしょうか。世間のいう「健全」に生きることに対する疑問と嫌悪感を感じました。
『T2 トレインスポッティング』社会不適合者だけど賢者になってしまっている悲しさ・・・
何か一つをやり遂げることをせずだらだらと軽犯罪を重ねながら生きる、そんな生活から足を洗おうとしたレントンも結局は時代の波に流されうまくいっていないというのがなんとも物悲しいです。
かといって悪になりきってマフィアのボスになるとか、この4人はそこまで器用ではないんですよね。そこまで振り切って悪になることはできないというか。悪になるにもある程度筋の通ったまっとうさが必要なのだとすれば、完全なる不景気の時代に20代を過ごした4人はいまさらそちら側でがんばる気力も残っていなかったのかもしれません。
なんという惨めさでしょう。本当は自分のその日暮らしな生活が馬鹿げていると気付きながらもまっとうに生きることもできないという無力感が辛いです。
そんな彼らははたから見れば社会不適合者ですが、楽観的に生きている訳ではなく誰よりも冷静な視点で世の中を見つめ続けています。一作目では世の中はどんどん成長していってそのうち性別という概念もなくなるだろうと言っていたレントンですが、今作では未だ女性差別人種差別はなくなっておらず、世界のニュースよりセレブの整形情報に夢中になるような世の中だと、べロニカとの会話の中で語っていました。
見かけだけ大きく成長したように見える世の中ですが、結局は想像していたような自由や平等は実現されておらずただのハリボテだということを教えてくれます。
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『T2 トレインスポッティング』やはり人生は選ばなければいけない
何もかも失い続けている彼らですが、それでも人生は選ばなければならないというメッセージをひしひしと感じました。レントンがスパッドを薬物依存から救うために山に連れ出すシーンがありましたが、その中でとにかく他に夢中になれるものを探せと言っていました。
ジャンキーにとっては何千何万回と聞いた言葉だとは思います。しかしもうそれを諦めたら希望は絶たれてしまうのです。いくら自分の不遇を呪い続けても何にもなりません。
人生に「成功しろ!」とか「勝て!」とかそういうことではなく、「選べ」というのがこの『トレインスポッティング』でありその選んだ未来が『T2 トレインスポッティング』なのです。
ただその選んだ先で失敗したとしてもそれでもなお、選ばなければならないというのが人生だということですね。
やみくもにがんばれだとかいう訳ではなく、自分の人生を自分で選べというのはシンプルだけど案外みんなできていないのかもしれません。
スパッドに「お前は何に夢中になった?」と聞かれたレントンが「夢中で街を出た」と答えたことが全てを物語っています。
『T2 トレインスポッティング』現代社会をうまく生きれないすべての大人へ贈る名作!
前作から20年、当時衝撃を受けた世代がちょうど主人公たちと同じようにおじさんになってから見ると、かなりエモーショナルな気持ちになるのではないかと思います。
身体だけ大人になっても未だにうまく生きれない、そんな中年たちの目線から見た社会は虚しさであふれています。そして前作同様、現実と妄想の境目をあやふやにするような映像表現がたまりません。疾走感と哀愁が同居するその斬新でセンス溢れる表現は監督の個性が光っています。さすがダニー・ボイル!
そして現代社会をひたすら冷静な視点で、「斬る!」というわけではなく見つめるという雰囲気がいいですね。社会的な側面はありつつ、決して世の中の不条理に対する正義の押し付け映画ではありません。登場人物も正義なんて言葉とはかけ離れていますしね。
物分かりのいい大人になれない全ての人に見てほしい名作です。
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ダニー・ボイル監督作品
画像出典:IMDb “T2 Trainspotting”
浜村満果
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