『きみと、波にのれたら』ネタバレ感想。湯浅政明監督のアニメ表現と作家性で見せる王道ラブストーリー。

今回は現在絶賛上映中の劇場アニメーション作品『きみと、波にのれたら』の感想です。

アニメーション好きの間ではひそかに話題になっている本作ですが、湯浅監督のファンなのでいち早くチェックすべく映画館へ駆け込んできました!

  1. ストーリー展開
  2. アニメ表現
  3. 湯浅政明監督の作家性

という順でレビューしていきたいと思います!

まずは映画情報を紹介します。

 

『きみと、波にのれたら』あらすじ・出演者情報(声優)

あらすじ

海とサーフィンが大好きな向水ひな子は、大学に通うため海の近くで一人暮らしを始めます。

ある日住んでいたアパートが火事になり、消火活動中に雛罌粟港と運命的な出会いを果たし、ふたりは次第に惹かれ合います。

仲を深めていったふたりでしたが、ある日港は海で溺れた人を自らの命と引きかえに助けてしまい帰らぬ人に・・・。

登場人物(声優)

雛罌粟港 – 片寄涼太(GENERATIONS from EXILE TRIBE)
向水ひな子 – 川栄李奈
雛罌粟洋子 – 松本穂香
川村山葵 – 伊藤健太郎

今回のこの4人の声優陣はすごくよかったと個人的には思います!

変に「声優っぽくしよう」という力んだ感じがなく自然な演技だったので、この物語がより等身大でなじみやすいものになっていました。

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※情報変更はご容赦ください。

『きみと、波にのれたら』は現在劇場公開中の作品です(2019年7月現在)。

『きみと、波にのれたら』の湯浅政明監督と原作について

『きみと、波にのれたら』の湯浅政明監督と、原作・脚本について紹介します。

監督の湯浅政明はカルト的な人気を誇るアニメーター

監督は『マインド・ゲーム』や『夜は短し歩けよ乙女』などを手がけた湯浅政明です。

独特のパースを用いた作画は世界的にも注目されており、2017年の『夜明け告げるルーのうた』ではフランスのアヌシー国際アニメーション映画祭でグランプリを獲得しています。

NETFLIXオリジナルアニメ『DEVILMAN crybaby』も記憶に新しいかと思います。

また、近年ではFlash(Adobe Animate)というソフトを用いたアニメーション制作を行っており、本作でもその独特なデジタルアニメーションの世界を堪能することができます。

おすすめストップモーションアニメ10選】の中の番外編「特殊な技法のアニメ」でも紹介していますので、合わせてご覧ください。

『きみと、波にのれたら』の原作は?脚本は吉田玲子さん。

『きみと、波にのれたら』は湯浅政明監督のオリジナル作品です!

脚本は前作『夜明け告げるルーのうた』でも監督とタッグを組んだ吉田玲子さん。

今回の『きみと、波にのれたら』も、湯浅政明監督と吉田玲子さんの共同原作ということになるのだと思います。

ちなみに、脚本の吉田玲子さんは『猫の恩返し』、『映画けいおん!』、『聲の形』、『若おかみは小学生!』などを手掛けています。

以降ネタバレ含みますので、未鑑賞の方はお気をつけください!

『きみと、波にのれたら』のストーリー展開

ストーリー展開は、胸やけしそうなほどのイチャイチャ…からの恋人の喪失。

はっきり言って前半はリア充全開です。リア充という言葉自体死語かもしれませんが…

しかし最後まで見るとそのイチャつきっぷりすら愛おしく思えてきます。

王道ラブストーリー!本当に湯浅アニメ!?

前半、特にひな子と港が初めて海でデートをするシーンなんかは、トレンディドラマか?というベタベタさでした。

港の車にのり、ぎこちない会話をするふたり。音楽でもかけますかと港がかけた曲を懐かしいとふたりで口ずさみながら海へと向かいます。海でサーフィンをした後、港がハンドドリップでコーヒーを入れてふたりでそれを飲み、「呼び捨てでいいですよ。俺もひな子って呼びたいし」って。

なんだこれは!

本当に湯浅アニメなのか?!

というくらいの衝撃でした。あまりにも甘酸っぱすぎて胸焼けしつつも、ほほえましく鑑賞しました。

その後付き合ってからも結構イチャイチャを見せつけられるのですが、これは全て後半へのフリのようなものです。

まさかのホラーファンタジー展開?

港が海での事故によって命を落とし、ひな子はどん底へと突き落とされます。港と一緒に言ったカフェ、港が作ってくれたタマゴサンド、何を見ても港を連想してしまい、海に行くのも怖くてやめてしまいます。

今までの幸せが全部トラウマになってしまうのです。

しかしある日ひな子は、港と口ずさんだあの曲を歌えば水の中から幽霊の港が出てくるということに気がつき…

というまさかのホラーファンタジーのような展開に!

しかし港はひな子に触れることもできないので以前のようには愛し合えないのです…

後半は幽霊の港との切ないラブストーリーになっていきます。

『きみと、波にのれたら』のアニメ表現

『きみと、波にのれたら』では、湯浅政明監督ならではの数々のアニメ表現を見ることができました。

リアルよりも美味しそうなコーヒー、タマゴサンド、オムライス!

アニメーションの魅力の一つとして出てくる食べ物が美味しそうというのがあると思いますが、本作ももれなく美味しそうです!

コーヒーをドリップする場面一つとっても、画面越しに香りが伝わってくるような感覚におそわれます。

ただただ細かくリアリティを追求する、というよりは「アニメーションの中でどう見えたら印象的か?」ということが綿密に考えられているような気がします。

また、ふたりがよく通っていたレトロなカフェもとっても素敵でした。

小さなエレベーターのようなもので注文したコーヒーや食べ物が運ばれていましたが、あれはダムウェーターという機械なんだそうです。

こういう食べ物に関する印象的なシーンが数多く出てくるので、港が死んでしまった後にもいろんな食べ物が登場するたびに思い出とリンクしてひな子は港のことを考えてしまいます。

魚眼レンズのようなパースで見せる部屋。アニメでしか出来ないディティールの面白さ。

とにかく全体的にものすごくポップな作品ですが、それを支える丁寧な細部へのこだわりがあるので映画としてはバランスのいいものになっていると思いました。

例えば最初のひな子の部屋のシーンも丁寧に作られていてアニメーションの楽しさが伝わってきます。

引っ越したばかりでダンボールまみれの部屋の中で、ぐちゃぐちゃのオムライスを食べるひな子。

母からの電話にでながらオムライスを食べようとしている最中にそびえ立つダンボールの壁が崩れそうになり、おさえたら今度は反対側が崩れそうになって、また反対が崩れそうになって、というシーンです。

動きの一つ一つが慌ただしくひなこのおっちょこちょいな性格もよくわかりますし、魚眼レンズのようなパースでそびえ立つダンボールがごそごそと倒れる描写は実写では表現できない面白さがあります。

各所にこういった細かいアニメーションが入ってくるので、くすくす笑ってしまいました。

『きみと、波にのれたら』湯浅政明監督の作家性

ファンとして見逃せないのが湯浅政明監督の作家性です。

『きみと、波にのれたら』は、商業アニメでどう作家性を出すのかという一つの解答ではないかと思いました。

主題歌はGENERATIONS from EXILE TRIBE

この映画のキーとなるのが歌うと港を呼ぶことができるという「思い出のあの曲」なのですが、その曲がGENERATIONS from EXILE TRIBEの曲です。

GENERATIONSというちょっとこってりしたというかイケイケな感じの要素をそのまま映画のメインに持ってくるというのは、作品の方向性にも影響する大胆な決断だったと思います。

なんどもなんどもひな子がこの曲を口ずさむので、おのずと映画そのものがこの曲の大衆的なポップさに支配されそうなものですが、そこは湯浅作品。

独創的なアニメーションでうまく大衆的な部分と芸術的な部分を共存させています。

王道なラブストーリーの中にも湯浅演出が散りばめられている

また、お話自体は結構王道なラブストーリーですが演出に少しずつ笑いを盛り込んでくるというのも印象的でした。

幽霊の港が初めてひな子の前に登場するというとき、普通なら感動的な再開のシーンになるはずが、ひな子の飲んでいたコップの水の中にぶくぶくと港っぽいものが出てきて、しかも「今港がいた!!」と叫び散らすひな子が完全に頭おかしい人認定されてしまうというシュールな展開になっていました。笑

そういった大衆的なものとからむという試みもあり、ファンの間では結構賛否が分かれているようですが私は素直に感動しました。

大衆的な要素が多い中でも、うまく作家性を出していくことができる監督はなかなかいません。

『マインド・ゲーム』のようなサイケデリックな作品も大好きですが、王道なラブストーリーに見せかけてものすごくアニメーションの面白さが込められている本作も魅力的な作品だと思います。

『きみと、波にのれたら』甘く切ない夏に浸るのも、湯浅アニメの世界に没頭するのも。

鑑賞後はとってもエモーショナルな気分になってしまう切ない一作です。

私は1人で鑑賞しましたが、ぜひ恋人や友人とみて甘酸っぱい気分に浸ってみてはいかがでしょうか。もちろん1人で湯浅アニメーションの世界に没頭するのもいいと思います。
海とコーヒーとタマゴサンドが印象的な素敵なアニメーション作品でした。

参考・画像出典:『きみと、波にのれたら』公式サイト