『この世界の片隅に』感想。健気なすずさんからも奪う戦争。思い出すだけで涙が止まりません…

今回は、「アメリカ流れ者」で町山智浩さんが2016年11月1日に紹介されていた『この世界の片隅に』の感想です。

公開当初はミニシアターでの上映でしたが、公開規模がどんどん拡大され最終的には上演期間が2年にも及ぶという異例の大ヒットを成し遂げた驚異的な作品です。

私も公開間もない頃にミニシアターに足を運んだものの、結局満席で見れず夜の回をみました!結果的に夜の回も満席になっていました。笑

この映画は思い出すだけで涙が止まらなくなります・・・。すずさんの小さな幸せさえ奪った戦争は、やっぱり残酷です。

 

『この世界の片隅に』あらすじ・出演者情報

あらすじ

舞台は第二次世界大戦中の広島。18歳で縁談がもちあがり、軍港のある呉に嫁ぐことになった主人公すずは、戦中でも食卓に工夫を凝らし、毎日を精一杯生きていきます。新しい生活にだんだんと慣れていくすずでしたが、それとともに戦争も激化していきます。

登場人物

北條すず - のん
北條 周作 - 細谷佳正
水原 哲 - 小野大輔
黒村 径子 - 尾身美詞
黒村 晴美 - 稲葉菜月

主役の北條すずの声を演じたのは連続テレビ小説「あまちゃん」でもおなじみの、のん(能年玲奈)さんです。片渕須直監督が直々にオファーしたというだけあって、あまりにもすずさん役にぴったりすぎるのんさんの演技に感嘆しました。役というか、のんさんとすずさんが一体化していました…!広島弁の練習もかなりしていたようで、違和感のない完璧な広島弁だったそうです。

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『この世界の片隅に』町山さん解説。監督自身が広島の呉市で直接取材した上で制作された

町山さんによると、本作を制作するにあたって片渕須直監督は自ら徹底的に取材を行なったそうです。

深夜バスに乗って何度も広島を訪れ、当時の店の品揃えや天気の様子など細かく調べ上げ、徹底的に時代考証を行いました。

気がつきませんでしたが、作中では広島弁と呉弁の微妙なイントネーションの違いも聞き分けられるようになっているそうです。

また、軍や兵器についてもリアリティ溢れる描写がなされていて、あらゆるシーンが細部にまでこだわって制作されています。

原作に対する圧倒的なリスペクトを持ち、その時代の空気を後知恵抜きで再現するというその熱意は、目を見張るものがあります。

以降ネタバレ含みます!お気をつけください。

『この世界の片隅に』原作マンガの雰囲気のままのアニメーション

着物を切ってもんぺにしたり(すずさんのやり方は間違っていたようですが、笑)食べられそうな草花を調理してみたり、日々の暮らしを少しでも豊かにするため、毎日工夫をこらしながら生きていくすずさん。

その丁寧な生き方が、アニメーションでもしっかりと表現されています。

すずさんやその他のキャラクターたちは、何か大きなアクションを起こすことはほぼありませんが、一つ一つの所作に温かみがあり、本当に血の通った人間のように見えました。

すずさんが晩御飯に使えそうな草を摘む、風呂敷包を背負う、などのその一つの動作に「すずさん」という人格が乗り移っているのです。決してものすごく抑揚をつけて動くという訳ではありませんが、それがより一層人間らしさを引き立てています。

原作マンガの絵の雰囲気をそのまま再現したような作画

私は原作マンガを読んでから映画を鑑賞いたしましたが、原作の絵の雰囲気をそのまま再現したような作画に圧倒されました。

あの絵が動くとどうなるんだろう?と鑑賞前はドキドキしていましたが、線の柔らかさや骨格の雰囲気に何の違和感もなく、まさに原作そのものだったのでとても驚きました。劇場アニメにありがちな、とにかく迫力を出せばいい!という発想を取り払った本作は、一味違ったアニメーションになっていて興味深かったです。

原作マンガもぜひ読んでみてください。

『この世界の片隅に』戦時中だって、恋があったし、痴話げんかだってあったはず。

この映画が普通の戦争映画と違うというのは見た人なら誰でも気づくことでしょう。

陰鬱な雰囲気や悲惨な描写はあまりありませんし、戦争映画をあまり見ない人でもとても見やすいのではないでしょうか。

物語はあくまでも戦争のあった時代の人々の暮らしに重きを置いていて、戦争映画といってしまうのは少し違和感があります。

しかし、「戦争映画じゃないからいいんだ!」という意見にも共感しかねます。そこに触れずにこの映画を語ることはどうしてもできないような気がします。

私としてはどちらでもいいからとにかく映画を見てくれという気持ちです。笑

実際、戦争映画なのだという露骨な描写は全然ありません。

例えばすずさんが遊郭の女性と出会うシーンなどもあります。原作ではこの遊女のリンのなじみの客が周作で、今では考えられない複雑な関係になっていましたが映画版ではその辺りは詳しく描かれていません。

悲惨な状況をつらつらと描くのではなく、あくまでもすずさんの視点から見た戦中の呉を描いています。

直接的に「戦争反対!」を声高に叫んでいる訳ではないからこそ、日常に戦争が入り込んでくるということをしっかり描いている作品なのです。

『この世界の片隅に』戦時中でも人々が淡々と生活していたというリアル。

朝ドラのヒロインのように「戦争はいけないんです!醜いものなんです!」と言ったところで、今日で戦争がおしまいになるわけではありません。明日からも空襲警報に備え、食べるものも少なく、それでも毎日生きていくしかないのです。

反対すれば最悪殺されてしまうかもしれません。こんなのおかしいと思っても、自分を騙し続けるしかないんです。

戦争を止める権限なんて民衆にはないのですから、賛成も反対もなくただただ毎日を続行していくしかありません。

これがリアルな戦争ではないでしょうか。

ただの形式として「戦争はダメです!」と訴えるだけの映画なんかより、よっぽどエグい現実がこの映画には詰まっています。

戦争というものを後知恵で非難することはいくらでもできます。本作はただのプロパガンダではなく、戦争のあった時代に生まれた人々に思いを馳せるきっかけを与えてくれる作品だと思います。

『この世界の片隅に』おっとりしたすずさんさえ変えてしまった戦争。

終盤ですずさんが戦争の虚しさを訴えるシーン。

空襲の場面は直接的に描かれず、生死の境をさまよっているすずさんの朦朧とした様子を、フィルムスクラッチという手法で制作されていましたが、それがより一層痛ましく思えました。空襲で大切なものを失い、それでも戦争を憎むことが許されない国の空気に憤りを感じたのです。

町山さんもおっしゃっていましたが、朝ドラのヒロインのようにすずさんは「戦争はいけないんです!」みたいなことをあんまり言いません。

おっとりしていて中盤まで全然怒ったりしませんし、町の人たちもみんな初めから戦争に大反対という訳ではありませんでした。

そんな人がふと我にかえり、ついにそれを言わせてしまう戦争って何なんだろうという気持ちになりました。

『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』の公開も楽しみです。

どうしようもない時代でも、自分のできることをやって明るく生きていく、そんな健気なすずさんの姿に涙せずにはいられません。そうやってすずさんは、戦争によって心が貧しくならないようにと、ひとり静かに戦っていたのかもしれません。そして、そんなすずさんから大切なものを奪っていった戦争を、二度と起こしてはいけません。

日々の暮らしを見つめ直し、どんな状況でも自分らしく生きることを思い出させてくれるような素晴らしい作品です。

2019年12月20日には、本作に新規場面を追加した別バージョン作品として『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』が公開されることが決定しています。登場人物の複雑な心情がさらに深く描かれているということで、こちらも楽しみですね。

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画像出典:IMDb “Kono sekai no katasumi ni” / 公式サイト