『フレンチアルプスで起きたこと』の感想。自然の前に男がちっぽけすぎる笑。カップルでは見ないように・・・。

今回は、「アメリカ流れ者」で町山智浩さんが2015年6月16日に紹介されていた『フレンチアルプスで起きたこと』の感想です。
町山さんは『ゴーン・ガール』よりある意味恐ろしいと映画だとおっしゃっていましたが、確かに恐ろしい映画でした…カンヌ国際映画祭で「ある視点」部門の審査員賞を受賞したことでも話題になった本作ですが、早速どんな映画なのかご紹介させていただきます。

≫ 『ゴーン・ガール』のレビューも合わせどうぞ

 

『フレンチアルプスで起きたこと』あらすじ・出演者情報

あらすじ

休暇中のスキー旅行でフランスのアルプスを訪れたスウェーデンの一家。壮大な雪山に囲まれ、テラスでゆったりとした昼食の時間を過ごしていた4人でしたが、突然雪崩が4人のいるテラスに直撃してきます。幸い大事には至らなかったものの、その時に父のトマスがとった行動によって、一家のリゾート旅行は思わぬ方向へ転落していきます。

登場人物

トマス - ヨハネス・バー・クンケ
エバ - リーサ・ローヴェン・コングスリ
マッツ - クリストファー・ヒヴュ
ヴェラ - クララ・ベッテルグレン
ハリー - ヴィンセント・ベッテルグレン
ファンニ - ファンニ・メテーリウス

主役をつとめるヨハネス・バー・クンケはスウェーデンの演劇シーンで活躍している俳優です。一見スマートなビジネスマンという役柄にぴったりでした。
妻を演じたリーサ・ローヴェン・コングスリは『ワンダーウーマン』などの大作にも出演しています。
子役のクララとヴィンセントは本作がデビュー作となり、長期にわたるキャスティングの中で監督が見出した本当の姉弟なんだそうです。

クリストファー・ヒヴュは『ゲームオブスローンズ』(レビューはこちら)の野人役で知られています。

『フレンチアルプスで起きたこと』スキー旅行のためアルプスを訪れたスウェーデンの一家

スウェーデンからフランスのアルプスに旅行に来たこの家族。泊まっているホテルの高級感からしておそらく裕福な家庭のようです。

トマスは敏腕ビジネスマン、美しい妻エバ、2人の子供に恵まれとても理想的なスウェーデン一家という感じがします。おそらく普段仕事が忙しくてなかなか家族サービスができていないトマスが、家族とゆったりと休暇を過ごすためにわざわざフランスまで来たのでしょう。

しかしその理想的な家族がどんどん崩壊していき、それがたまらなく面白い映画になっています。

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以降ネタバレ含みます!お気をつけください!

『フレンチアルプスで起きたこと』逃げる夫、女は男の失態を絶対に忘れない…

雪崩に遭遇した時トマスがどうしたかというと、なんと妻のエバも子供たち二人もおいたまま我先にと一人で逃げてしまいます!

とっさにとった行動なので、悪気があったわけではありませんが、エバはそのことを旅行の間ずーっとひきずってしまいます。

男女問わずですが、エバのように根に持ってしまうタイプの人は結構多いですよね。

トマスが悪気がなかったことは理解しているので、最初はトマスに対して激怒したりはしません。
でもなかなか謝らないトマスにしびれを切らし、エバはついに他の観光客と話しているときに

「この人雪崩が起きた時一人でにげっちゃったんですよ?」と漏らしてしまいます。

でもこのトマスは、もはやそのことを無かったことにしようとします。笑

いや逃げてないよ?逃げるわけないよね?」と。

でもスマホのビデオ機能にバッチリ証拠は残っちゃってるんですけどね。このシーンの異様な緊張感は凄まじかったです。

プライドが高くて平気で嘘をつくトマスに愛想を尽かしたエバはだんだん攻撃的になってきます。
夫婦のお互いの意地の張り合いで、スキー旅行はどんどん最悪の旅になっていきます…。

町山さん解説。男は生物学的に逃げる!子供を守らない生き物!?

町山さんの解説によると、生物学的に男性は逃げてしまうようです。一方で、女性は子供を守ろうという行動をとります。これは人間に限ったことではなくて、生き物全般で子供を守るオスは少ないそうです。

また、統計的に夫婦で海難事故や災害に遭遇した場合、たいてい男性はこういう行動をとるために破局してしまうとか・・・。監督もそんな夫婦を見たことが映画の着想になっているようです。

『フレンチアルプスで起きたこと』男は自衛のため、やがて幼児退行へ…

例の一件以来、エバが全く心を開いてくれないのでトマスの心も荒れていきます。浮気しようとしたり、大自然に向かって汚い言葉を叫んだりとかなり大人げないです。笑

そしてとうとうエバの前で泣き出してしまいます!

最初はすごいスマートなビジネスマンで、勝ち組っぽかった男がここまで転落するのか!と笑ってしまいました。

ごめんよー!と子供のように泣きじゃくるトマスは、エバの同情をひくことができると考えたのでしょうが、「あなた、涙出てないわよ」と一喝され、あっけなく失敗します。

嘘泣きまでしたのに妻にあっさり見破られ、もうなすすべなしの状態です。

どうしようもなくなってしまった時、人間は赤ちゃんの頃と同じ行動を取ってしまうんだというのがよくわかるシーンですね。

町山さん解説。追いつめられると人は幼児退行してしまう?号泣議員も・・・

なぜ夫が幼児退行をしてしまったかというと、幼児になると守られるという防衛本能からなんだそうです。当時話題になっていた号泣議員のことも仰っていました。たしかに、同じ状況なんですね・・・。

『フレンチアルプスで起きたこと』壮大な自然のなかで描かれるちっぽけな人間模様

自然災害に遭遇した時、人間はどういう行動をとるのか?ということが本作のテーマになっているようです。

シーンの多くは雪山の中で撮影されているので、かなり過酷なロケだったようです。

子役の二人もそんな環境で自然に演技していてすごかったです。そんなものすごい強大な自然の中で人間という生き物はずっとちっさいことにこだわっていて滑稽に見えました。

何が起こるかわからないような緊張感を保った画面作りからもその意図は伝わってきます。

町山さんもおっしゃっていましたが、山上に登るリフトがガタンと音を立てただけでもびっくりしてしまいました。そしてBGMに使われているヴィヴァルディの四季の「夏」からもとてつもない緊張感が伝わってきます。

やはり壮大な自然の中では人間は無力だということですね。普段都会で充実した日々を送っているこの家族でも、所変わればこんな大惨事になってしまうのですから。

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『フレンチアルプスで起きたこと』人間の弱い部分を徹底的にあぶり出す監督のセンス

本作を手がけたリューベン・オストルンド監督は人間の弱さや嫌な部分をみせるのが非常にうまい監督だと思います。

直接的に過激な表現やグロテスクな表現を使わず、人物の行動を淡々と描くことで人間という自己中心的な生き物のおぞましさをあぶり出しています。

昨年公開されたリューベン・オストルンド監督作品『ザ・スクエア 思いやりの聖域』は、アート界で活躍する有名美術館のキュレーターが、様々なトラブルに見舞われていく様子を描いた風刺的な作品でした。
こちらも人間は結局だれしも自分がかわいいんだとよくわかるとってもいやーな映画でした。笑

本作もまたそうですが、人間は誰でも嫌な部分を持ち合わせているということを思い知らせてくれます。

トマスもエバも確かに意地っ張りですが、この二人が特別変なやつというわけではなく、夫婦なら誰でもこんな状態になってしまうかもしれないですよね。
普段はとてもいい人のように見えても、こんな風に自然災害や何かの事件に遭遇した時、その人の弱さが出てしまいます。

問題はその弱さを自分で認められるかということで、トマスはそれができなかったからズルズルと謝れず自分を正当化するような行動ばかりとってしまっていました。
エバもすぐに忘れてしまえればここまでこじれることはなかったのに、結局は些細なことにこだわってしまったがゆえに修復が難しくなってしまったのです。

自分は小さい人間だとさっさと受け入れてしまえばこんなことにはならなかったはずなのに、なんで大人はそれができないんでしょうね…。

この映画を見て自分も人のこと言えないかも、と思った人も多いでしょう。私もその一人です。
全てが監督の狙い通りに成功している、とてもスタイリッシュな作品と言えます。

 

『フレンチアルプスで起きたこと』沈黙と気まずさを笑う作品、ブラックなコメディが好きな人は必見

ただやっぱりこの作品がすごいのは、あくまでコメディだということです。登場人物たちは真剣そのものだからこそ、観客はその滑稽さに思わず笑ってしまいます。
全編通して張り詰めた緊張感があり、観客は笑っちゃいけないけどどうしても笑ってしまうという異色のコメディとなっています。随所にちりばめられた悪趣味なネタに爆笑しまうこと間違いなしです。

そして笑いながらも、ちょっと共感してしまう部分も多いのではないでしょうか。
保身のために素直になれない現代人にぜひみて欲しい一作です。
ただし夫婦やカップルで見るのはオススメしません…!

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画像出典:IMDb “Turist” / 公式サイト