映画『キャロル』の感想。「ベルサイユのばら」オスカルに恋をし続ける女性たちのように。

今回は映画評論家の町山智浩さんが、2016年1月12日にTBSラジオ「たまむすび」の中で紹介していた映画「キャロル」について語ります。

 

映画『キャロル』のあらすじ・主な出演者

あらすじ

舞台は1950年代のニューヨーク。主人公のテレーズは、デパートのおもちゃ売り場で働く若い女性です。
朝には自転車で迎えに来てくれる恋人もいて、仕事の後は友人たちとお酒を飲みながら愚痴を言い合うような、ごくありふれた、大きな変化のない生活を送っていました。
クリスマスが近づいてきたある日、テレーズの働く売り場に、美しいブロンドの夫人が現れます。
彼女の名はキャロル。子供のクリスマスプレゼントを選びに来た彼女と運命的な出会いを果たしたテレーズは、自分が知らなかった、知ろうとしなかった本当の自分にも出会うことになるのでした。

監督・出演者

<監督>
トッド・ヘインズ
<主な出演者>
テレーズ・べリベット:ルーニー・マーラ
キャロル・エアード:ケイト・ブランシェット
アビー・ゲルハルト:サラ・ポールソン(キャロルの幼馴染)

2人の女性が互いに恋に落ちていく様子と、それを取り巻く環境が描かれた作品です。
時代背景は1950年代なのですが、景色が軽快に流れていく映像美、画面にちりばめられた配色のセンス、登場人物たちのファッションなどに深く引き込まれます。新しい技術やセットで演出しているにも関わらず、こだわりの撮影手法が古き良き時代を丁寧に表現している作品です。

≫ 『キャロル』をAmazonプライム会員特典で見る(無料)

町山さんの解説。1950年代には扱われることのなかったタブー

町山さんはこの映画を、まるで1950年代に撮影したようだとおっしゃっていますが、一方でその時代には決して作られるはずのなかった映画である、というお話もされています。

一体どういうことかというと、今では信じられないような話ですが、昔はハリウッドでは表現に関する自主規制ルールがあったそうなのです。

ヘイズ・コードという検閲制度で、映画を制作する際に用いてはいけない要素が細かく決められていました。その中には異人種間混交も挙げられており、白人と黒人の恋愛や、同性同士の恋愛を取り扱うことはタブーとされていたのです。

50年代の雰囲気を存分に出しつつ、過去には作ることが許されなかったテーマを扱っているという点で、やはりキャロルは現代ならではの作品と言えそうです。

≫ 『キャロル』をAmazonプライム会員特典で見る(無料)

以下、ネタバレを含みますのでご注意を!

映画『キャロル』目があった瞬間、恋に落ちてしまった2人

2人が出会う冒頭のシーンは、会話がありません。

はじめにテレーズが、売り場にやってきたキャロルを見た瞬間に目が離せなくなり、しばらく見つめた(ように見えますが実際はとても短い時間)あとに、キャロルが視線に気づいてようやく目が合います。

会話がないのに、2人の目の動きやそこからほとばしる気持ちの揺れが、映画の各シーンで中で寂しさ、喜び、悲しみ、怒りを語りつくしています。こんなに言葉や説明もなく、静かに話が進んでいくのに、映画全体からは2人の女性の強い感情が伝わってきます。何度も会話がなく、目が物を言うシーンがありますが、冒頭の出会いのシーンはひときわ印象的です。

一瞬がとてつもなく長く感じられたり、少しの会えない時間が永遠にも感じられるのが恋ですよね。キャロルを見つけたテレーズの胸の高鳴りを、きっと映画を観るあなたも同じように味わうことができます。

映画『キャロル』自分に正直に生きなければ、人生は意味がない

映画の中でキャロルは結婚していますが、夫との関係はすでに破綻していました。夫は妻を愛し、妻も夫の親切に応える仲が良さそうなシーンもありますが、不仲が原因で関係が悪化しているわけではありませんでした。

キャロルは、恋愛対象が女性で、それを隠すために夫と結婚し子供をもうけ、10年以上自分を偽りながら結婚生活を送ってきたのです。

もちろん家族として夫を尊敬し愛していたと思いますが、性的な対象として見つめることができない相手と添い遂げるのは、どんなにつらいことでしょう。多くの人が異性を恋愛対象とする中で、同性に恋焦がれるのはどうしても少数派となってしまいますが、それは青が好きか赤が好きか、といったことと相違ないですよね。
大事なことは自分がどう感じ、どう生きたいか、それを自覚したときに、自分の想いに正直に生きることができるか、ということだと、この映画を観て感じました。

こうあるべき、ということにとらわれるのではなく、いつの時代も自分の信じる宗教や感情を大事にしてきた人々がいましたよね。

それは時に自分を危険にさらすことにもなるかもしれませんが、映画の中でも、自分に正直に生きようと決意したときのキャロルの表情は憑き物が落ちたように穏やかでまっすぐです。またテレーズも、自分が本当に選択したいことが徐々に見えてきて、映画の中で少しづつ大人の女性に近づいていきます。

そんな2人の姿がとてもまぶしく、自分の想いに正直に生きることが幸福を作るのだということを実感させられます。

≫ 『キャロル』をAmazonプライム会員特典で見る(無料)

「ベルサイユのばら」オスカルに恋をし続ける女性たちのように

昔、母の愛読書であった「ベルサイユのばら」を読んだことがありました。

作品の中に登場するマリー・アントワネットやロザリーなどの女性たちは、主人公オスカルが同性であると判明してもなお、オスカルに恋をしていました。幼いころの私はそれが不思議だったのですが、このキャロルを大人になってから観て妙に納得する部分がありました。

同性でも異性でも、魅力的な人にはどうしても焦がれてしまうし、近づきたいと思ってしまうものですよね。
それが恋だと本人が自覚するのであれば、恋なのだと思います。恋には理屈もなく、好きになろうとしても好きにはれなくて、性別は関係なく突然やってきて、一度入ってしまうと抜け出そうと思って抜け出せるものではないのだと、キャロルとテレーズを通して学びました。

ようやく自分の中で、ベルばらを読んだ時に感じていた若干の違和感が解消されたような気がします。

映画では、キャロルの幼馴染で女性のアビーが、無上の愛でキャロルに尽くします。人が人を愛するときに、男性が女性に、女性が男性に恋をするという概念しかなかった幼い時の私には、想像も及ばなかった豊かな関係が、この映画の中には溢れていました。

自分の概念や、育ってきた環境での慣習を別のものに変換することはなかなか難しい作業です。

昔は同性愛は精神疾患だと思われて、治療の対象とされていました。そうした時代の中で、なかなか自分を病気ではないと認識することは難しかったと思います。少数意見はいつの時代も、間違っていることと捉えられがちですが、自分と違う考え方も認めることで、より広い視野や関係を持つことができるのかもしれません。

 

映画『キャロル』は、恋愛映画の王道を楽しみたい方にこそ!

女性同士の恋愛は多数派ではないかもしれませんが、キャロルとテレーズ、2人の関係は、王道の恋愛劇を繰り広げています。

誰かを愛するときには、性別やその人の所属、周りの意見は、本来は全く加味しなくてもよい要素のはずです。しかし、それがなかなか素直に出来ないキャロルとテレーズが、映画の様々な場面で、愛する人に後先考えず夢中になる楽しさや喜びを教えてくれます。

また恋をしたくなる、自分の恋愛を振り返りたくなる、そして側にいる愛する人を抱きしめたくなる、そんな作品となっていますので、恋愛映画が好きな方にはぜひおススメです。

≫ 『キャロル』をAmazonプライム会員特典で見る(無料)

画像出典:IMDb “Carol”

The following two tabs change content below.
HAYA

HAYA

眉毛が太い20代女性。本の虫です。普段は病院でお仕事しています。好きなものは、きのこ、ロンドン、亀、まつ毛パーマ、感染もの。心の赴くままに、つらつらと書いています。