今回は、「アメリカ流れ者」で町山智浩さんが2017年11月14日に紹介されていた「フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法」の感想です。
なんとなくただ楽しい映画なのかなと思って見てみると、それだけではなく非常に考えさせられる映画でした。
目次
『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』 – あらすじ・登場人物
あらすじ
舞台はアメリカのフロリダ州。フロリダにはディズニーワールドがあり、その近くの観光客向けの格安モーテルに住む親子の物語です。
20歳くらいの若いシングルマザーのヘイリーと7才の娘ムーニーの、貧しいながも明るく生きていく姿が描かれています。
主な登場人物
ヘイリー(母親) – ブリア・ヴィネイト
ボビー(管理人) – ウィレム・デフォー
ムーニー役のブルックリン・キンバリー・プリンスちゃんの悪ガキっぽいかわいい演技は町山さんも大絶賛でしたが、それもそのはず。
なんと3歳の頃にデビューという、天才女優さんでした。笑
フロリダ州出身の彼女は、本作で放送映画批評家協会賞最優秀若手俳優賞受賞など、これまでに10受賞16ノミネートを果たしています。
ヘイリー役のブリア・ヴィネイトさんは、ショーン・ベイカー監督がインスタグラムでスカウトした新人さんとのこと!
もともとは服飾デザインなどをしている方で、自身のブランドも持っていらっしゃるそうです。
モーテルの管理人、ボビー役を演じるのは「プラトーン」や「スパイダーマン」などで有名な実力派俳優のウィレム・デフォーさんです。デフォー大好きなんですが、本作でもめちゃくちゃいい味だしてます。
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『フロリダ・プロジェクト』とショーン・ベイカー監督の映画作り
フロリダ・プロジェクトとは?
町山さんの解説によると、「フロリダ・プロジェクト」のプロジェクトというのは低所得者向け公共住宅という意味だそうです。
実はアメリカでは、そのプロジェクトに入居することすら難しい人々がいるとのこと。
逮捕歴があったりあまりにも貧しい人々はプロジェクトに入居できないため、モーテルで一週間分のお金を払って、一週間ずつ暮らしているのです。だから週に一回向かいのモーテルに宿泊しに行くという大変なシーンもありましたね。
宿泊費を払うのも精一杯という感じで、かなりギリギリの生活をしている2人ですが、そんな中でもたくましく日々を遊んで生きるムーニーの姿に勇気付けられます。
今作はそんなムーニーの視点から描かれており、カメラもローアングルで子供目線で、まるでドキュメンタリーのような淡々としたタッチで描かれます。
調査から始める、ショーン・ベイカー監督の映画作り
ショーン・ベイカー監督の作品は以前に「タンジェリン」を見ました。全編スマホで撮影された映像で構成されていて、すごく斬新で面白かったのを覚えています。
「タンジェリン」はトランスジェンダーの人々が中心の物語で、「フロリダ・プロジェクト」はフロリダで暮らす貧困層の物語です。町山さんによると、監督はどちらもそんな人たちがいるということを全く知らなかったそうです。だから調べて撮り始めたとのことです。
↓以下ネタバレ含みますので、未鑑賞の方お気をつけください!!
『フロリダ・プロジェクト』の映像美はまるでインスタ映え!
この映画、鑑賞していると常に感じますが、インスタ映えを意識しているような美術が特徴的です。
パステルカラーのモーテルは一見メルヘンチックで、画面の色合いや小物なんかもパステルっぽくてすごくかわいいんですよね。
何というか、全編通して画面から「貧しさ」の色を感じることが無いんです。
もちろん登場人物はチープな服装をしているし、食べ物もいつも残り物みたいなものを食べているのですが、ビジュアルはあくまで「インスタ映え」を感じるんですよね。
美しい映像は、ムーニーの目線
おそらくこれもムーニー目線でこの映画が進行しているからなのでしょう。裕福な暮らしを一切知らないから、自分が貧困層ということに気づいていないのかもしれません。
町山さんもおっしゃっていましたが、ムーニーちゃんがお風呂の中で一人で遊んでいるシーンがあって、これが何を指しているのか私も後半の方で気づいたのですが、おそらくこの間にヘイリーは部屋で売春をしています。
だけど、その描写は一切ありません。
この映画はそういう貧困の残酷な部分をあえて直接的に描かずに、鑑賞者に想像させるという手法を使っています。
そもそもディズニーワールドのすぐそばに住んでいるのにそこに入ることはできないという境遇がすごく皮肉ですよね。ムーニーはなんで入ることができないのかおそらく理解していないのでしょう。
『フロリダ・プロジェクト』「マジカルエンド」にただただ号泣【ネタバレ!】
前宣伝ではやたらと「マジカルエンド」という単語を推していましたが、結末はというと、確かに「マジカルエンド」なのかなあ…
とにかくラストシーンは圧倒されました。
最終的にムーニーは児童相談所の職員のような人に連れていかれそうになり、親子は離れ離れになってしまいます。
ムーニーはその場から走って逃げ去り、友達の女の子に会いに行って、お母さんと離れちゃう…どうしよう、と号泣しちゃいます。
今まで友達と遊べなくなっても、暮らしが貧しくても全く泣いたりしなかったムーニーが、お母さんと離れ離れになることだけは耐えられなかったのです。
この時の ブルックリン・キンバリー・プリンスちゃんの演技がすごすぎて、ただただもらい泣きしていました…
その後は友達と一緒にディズニーワールドに走って行っちゃいます。
そして、ヘイリーの痛烈な「ファッ●ユー」の叫びが、なんとも悲しいラストシーンでした。
『フロリダ・プロジェクト』を見て思うこと、福祉は時に暴力を振るう
私ははっきり言って、ヘイリーがそこまでダメな母親だとは思いませんでした。
そりゃちょっと悪いこともしてるし、ファ●ク連発するし、火災現場でニコニコして写真撮ったりするし、あんまり品のいい人間ではないです。笑
でも、生活が貧しくても娘には絶対に暴力を振るわないし、ムーニーに愚痴を言ったりはしてないんです。
確かに違法な売春は良くないとは思いますが、それしか稼ぐ方法が残されていない、もしくはそう感じざるを得ないくらい現実が厳しいとすれば…?
一概にヘイリーが悪いと言えるのでしょうか。
何故シングルマザーになったのか経緯は描かれていませんが、父親にだって責任はあります。
物事の一部分だけを見て「母親失格だ」と烙印を押し、強制的に親子を引き離そうとするのは本当に正義だと言い切れるのでしょうか。
完璧なお母さんではないかもしれませんが、悪いお母さんって言い切れるのでしょうか。
もちろん児童相談所がほっとけないっていうのはわかるんですが…。非常にむずかしい問題です。
『フロリダ・プロジェクト』ありきたりな親子ドラマに飽き飽きした人にオススメ!
とにかく個性的で憎めないキャラクターたちが魅力的です。
ムーニーもヘイリーもすごく馬鹿なことをしてたりするんですが、毎日楽しく生きようとしている姿が素敵です。
そしてそれを遠くから見守るボビーとの関係性もなんとも微笑ましいです。
彼は父親ではないし、父親ぶるつもりもないから、あくまでモーテルの管理人として接していますが、内心モーテルの子供達のことをすごく気にかけてるんですよね。
子供たちの近くに変質者が来たシーンなんか、ものすごい威嚇の仕方をするんですが、そういう不器用だけど優しい人なんです。
いろんな親子の形があっていいんじゃないのかな、と感じられるような映画なので、普通の家族ドラマに飽きた人には是非見ていただきたいです!
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ショーン・ベイカー監督作品
画像出典:IMDb “The Florida Project”
浜村満果
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