マイケル・ムーア『華氏119』の感想。トランプ批判映画ではなかった!

今回は、「アメリカ流れ者」で町山智浩さんが2018年9月25日に紹介されていた「華氏119」の感想です。
某シネコンで予告編が流れていた時から楽しみにしていたのですが、ついつい見るのが遅くなってしまいました!

 

映画「華氏119」はドナルド・トランプ大統領誕生のドキュメンタリー

マイケル・ムーア監督の最新作である「華氏119」。タイトルからはなんの映画かピンと来ないですよね。

町山さんの解説によると「華氏119」の華氏は摂氏・華氏の温度のこと。

前作の「華氏911」とは?

マイケル・ムーアは2004年に「華氏911」という映画を撮っていました。その「911」というのが「9.11テロ」のことで、テロがあってからアメリカの自由が失われつつあったので「華氏911」は自由が燃え尽きる時の温度であるという意味でのタイトルだそうです。

「華氏119」とは?

「華氏119」の「華氏」は前作同様の意味で「119」とは「11月9日」という意味でこれは2016年の11月9日にドナルド・トランプ氏が大統領になった日を指しています。

というわけで、この映画はドナルド・トランプ大統領の誕生についてのドキュメンタリーなのです。

トランプ当選をマイケル・ムーアは予言していた!

私は選挙には行くものの、ものすごく政治問題に対する意識が高いというわけではありません。
そんな私でも2016年のトランプ大統領誕生の瞬間は忘れられません。ネットのフェイクニュースでしょ?!と正直思いました。笑

なぜあのとき、トランプ氏が当選してしまったのでしょうか。

事前の世論調査によるとヒラリー・クリントン候補優勢という結果がでていて、トランプ氏の当選はありえないと言われ続けていました。
しかし、誰も予想していなかったトランプ氏の当選を、マイケル・ムーア監督は予言していたそうです。

映画「華氏119」、実はトランプ批判映画ではない?

映画がはじまって早速トランプ大統領誕生の瞬間です。

絶望感あふれるBGMに圧倒されます。アメリカのトランプ氏支持者以外の人々からしたら本当にありえないことだったんでしょうね。

序盤はトランプ大統領の悪行をまざまざと見せつけられます。
人種差別、女性蔑視、さらには自分の娘にまで手を出しているのではないか?というおぞましい噂まで…
まさに平然と罪を犯してきたのです。それが罪でないかのように。
確かにこれだけ悪行の限りを尽くしていれば、自然と「トランプ慣れ」してしまいますよね。
どんなスキャンダルがでてきても、「またトランプがなんかやってるよ〜」という具合にまともに取り合わなくなってきます。

ただ、このトランプ大統領を徹底的に叩いて批判するだけの映画ではないのです。
この暴君が生まれた背景を知らなくしては、現状を変えることなどできません。
そう、実はトランプ大統領はいきなりなんの脈絡もなく誕生した訳ではなかったのです。

振り返れば民主党時代もひどかった – ラストベルトへの無関心

「華氏119」を見て一番ショックだったのは、オバマ元大統領がフリント市を訪れて、工業廃水によって汚染された水を飲まなかったシーンでした。

オバマ政権時代、ミシガン州のフリント市で水道水の「鉛汚染」が発覚したのです。鉛は人体に深刻なダメージ及ぼす物質なのに、水道水汚染を放置したせいで、住民には皮膚炎や神経障害などの重大な被害がでていました。

この時、リック・スナイダー知事は問題を全く改善しようとせず、「安全だから!」の一点張り。水を飲んだ人々の健康診断の結果も改ざんしていたとか……

その時、フリントにオバマ元大統領が来ることになり、住民は当然「これで救われる!私たちのヒーローが解決してくれる!」と期待を高めました。そしてオバマ元大統領は住民の期待を一身に背負い、演説中にフリントの水をコップに注ぎました。

しかし、オバマ氏は飲んだフリをして「ほら安全だ!」と言うだけ。

え…ちょっと…このシーンは言葉につまります。

その投げやりな小芝居に戸惑い、やがて市民は絶望感でいっぱいになってしまいます。正直オバマ氏にそんなイメージが無かったので知らなかった自分を恥じました。

そんな中でマイケル・ムーア監督がフリントの汚染水をタンクに積み込んで知事邸に思いっきり噴射していたのは痛快でした。笑

トランプはラストベルト(錆びついた工業地帯)の救世主になった

フリント市はミシガン州とウィスコンシン州とオハイオ州、ペンシルバニア州の五大湖の大きな湖の周辺にある重工業地帯でした。
過去には自動車工業で栄えた町ですが今はもう衰退していて、「ラストベルト(錆びついた工業地帯)」と呼ばれているとのこと。

ヒラリー・クリントン候補もオバマ氏同様、選挙期間中フリント市を訪れることはほぼなかったそうです。最後の最後にちょこっと訪れたものの、もちろん救済政策は打ち出せず、完全に取り残された地域になってしまったのです。

そこで、トランプ氏はクリントン候補に差をつけるためそのラストベルトを徹底的に救済するという公約を掲げます。
ラストベルトの人々の気持ちになれば、そりゃ何もしてくれなかった民主党の候補者より、トランプ氏に投票したくなるのはわかりますよね。

同時にラストベルト以外の人々は、民主党への不信感もあり、トランプ氏は無茶苦茶だし、となると「誰に投票してもなあ……」という政治への無力感が高まっていました。
そして投票しない人が圧倒的に多いという結果になってしまったのです。

トランプ政権は突然爆誕した訳ではなかった

鑑賞してみると、トランプ批判映画というよりは、なぜトランプ大統領が誕生してしまったのかということを読み解く、アメリカ政治全体についてのドキュメンタリーでした。

町山さんもおっしゃっていましたが、「この人だけは当選しちゃダメ!」という人を落とすために反対勢力に投票することは重要だと感じました。

クソはクソでもましなクソを選ぶということがなかなかできていないのが現状です。

「華氏119」の中でも語られていますが、アメリカという国は圧倒的左派の国です。平和を愛するヒッピーたちが作り上げた自由の国アメリカ。
決して政治に無関心なわけではないのです。

でも両政党ともその自由の国を任せたいとは思えない!となってしまうと…

選挙で投票しない人が多くなってしまったことによって、トランプ大統領という暴君を生んでしまったわけです。

しかしこの映画を見ているとトランプ氏もヒラリー氏も嫌で、どちらにも投票しなかった人が圧倒的に多いというのは納得がいきます。笑

アメリカでの出来事ですがこれは日本でも起こりつつある状況ですよね。
現政権である自民党に投票した人より、選挙に行かなかった人の方が圧倒的に多いのが日本の現状です。

決して対岸の火事ではございません…

「政治よくわかんないです」って人にこそ見てほしい!

日本の政治も詳しくないのにアメリカの政治ドキュメンタリーなんて分からない!と思うかもしれませんが、そんなに政治に詳しくなくても大丈夫です!見れます!笑

なぜならマイケル・ムーア監督はどこまでも市民・労働者目線で映画を作っているからです。
知らないニュース、知らない出来事にもしっかり感情移入することができるように、わかりやすく構成されています。
政治問題に鋭く切り込む作品ですがあくまでエンターテイメントなので、映画としても楽しく見れますし、痛烈な風刺がクスッと笑える傑作です。

マイケルムーア監督作品

参考/画像出典:映画『華氏119』公式サイト, IMDb “Fahrenheit 11/9”