今回は、「アメリカ流れ者」で町山智浩さんが2018年7月17日に紹介されていた『止められるか、俺たちを』の感想です。
世界的にも有名な鬼才監督・若松孝二が率いる若松プロダクションの映画製作を描く青春ストーリーです。
私は恥ずかしながら若松孝二監督の作品は見たことがなかったのですが、それでも十分楽しめました!
目次
『止められるか、俺たちを』あらすじ・出演者情報
あらすじ
1969年。吉積めぐみはピンク映画の助監督として若松プロダクションに入ります。
プロダクションを率いる若松孝二の破天荒さは撮影現場でも炸裂しており、初めは翻弄されるめぐみでしたが、だんだんと優秀な助監督へと成長していきます。
日々は過ぎていき、プロダクションを去る者もいれば新しい仲間も加わっていきます。めぐみは監督になりたいという気持ちを持ちつつも、どんな映画を撮りたいかハッキリとせず、悶々として日々を過ごしていきます。
登場人物
若松孝二 – 井浦新
足立正生 – 山本浩司
沖島勲 – 岡部尚
大和屋竺 – 大西信満
秋山道男 – タモト清嵐
小水一男 – 毎熊克哉
高間賢治 – 伊島空
福間健二 – 外山将平
荒井晴彦 – 藤原季節
ミキサー助手福ちゃん – 満島真之介
松田政男 – 渋川清彦
赤塚不二夫 – 音尾琢真
大島渚 – 高岡蒼佑
若松孝二役を演じた井浦新は、若松作品の常連俳優です。主演の門脇麦の強気な演技は、女性としてピンク映画の助監督を務めためぐみの役にぴったりでした。
他にも過去に若松作品に出演していたキャスト陣が多く出演しています。高良健吾や、寺島しのぶなどもカメオ出演しており、キャスティングからも若松孝二愛が伝わってきます。
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『止められるか、俺たちを』町山さん解説。若松孝二が作り続けた「ピンク映画」とは?
本作は、2012年に死去された若松孝二監督が立ち上げた、若松プロダクションの再始動記念映画として製作されました。監督の白石和彌は若松孝二の弟子のような存在だそうです。
「ピンク映画界の黒澤明」と呼ばれ、ピンク映画の枠を超えて映画界を魅了させた若松孝二監督。
町山さんによると若松孝二の作品はぱっと見はエロ映画でも、中身は全然違っているというものが多いようです。
ピンク映画とは?
そもそも「ピンク映画」というものがなんなのかあまりわかっていなかったのですが、町山さんの解説によると「ピンク映画」は「ポルノ映画」とは少し違っているようです。
「ピンク映画」とは、低予算のインディペンデント映画のようなもので、エロの要素が入っていれば内容はなんでもいいというものなんだそうです。
女性の裸が入っていれば、ストーリー自体は難しいものでも前衛芸術的なものでもなんでも許されるジャンルなんだとか。
この辺りがわかっていると、なぜ難しいストーリーの映画の中にいちいちエロをいれてくるのか?という部分も理解できます。
以降ネタバレ含みます!未鑑賞の方お気をつけください。
『止められるか、俺たちを』型破りだが、いろんな人々から愛されていた若松孝二
若い頃はヤクザの見習いなどもしていたという若松監督。
本作の中でも撮影中は厳しく現場を取り締まっていますが、みんなから恐れられていたわけではなく、本当に様々な人に好かれていたのだということが伝わってきます。
助監督のめぐみも、初めは監督に怒られっぱなしでしたが、そういう人なんだよ〜と仲間から教えられるとだんだん慣れていっていました。
大島渚や赤塚不二夫などの著名な人物とも交流があったようですね。
バーで若者が若松映画を批判するシーンなどもありましたが、めぐみがそんな若者たちに喧嘩を売る最中、若松監督は「まあ飲もうや」となだめていました。
意外と平和的なんだ!と驚きました。笑
また、自分の作りたい映画だけをひたすら作るのではなく、資金集めのために売れる映画を作ったりもしていて、柔軟な考えを持っていたというのも驚きでした。
小さいプロダクションを守って行くというのはそういうことなのかもしれませんね。
常識的な感覚も持ち合わせていたからこそ様々な人と交流をもつこともできたのでしょう。
『止められるか、俺たちを』ただ「いい映画」を作りたい。眩しすぎる若者たち。
1970年代の時代の空気が立ち込める本作では、めぐみを初め若松監督のもとで働く若者たちの青春の日々が描かれます。
お金はないけど時間だけは残酷なくらいにたっぷりある、そんなモラトリアム溢れる若者たちの日々は大人になってしまった私たちにグサッと刺さるものがあります。
そんな若者たちは純粋すぎるあまり盗みなどの軽犯罪もおこなってしまいます。
それは褒められたものではありませんが、そんなところからも無垢な子供のような内面が浮き彫りになっています。
金になるか、自分のキャリアアップに繋がるかどうか、などそんなことは一切気にもせず、ただ「いい映画」を作りたいという一心で映画製作に取り組んでいくその姿は眩しい…
精神的に歳をとってしまった私には眩しすぎます。
同時にこんな気持ちを取り戻したい、とも強く思いました。
『止められるか、俺たちを』時代に翻弄された若者と映画を作り続けようとするめぐみ。
若松監督はピンク映画の枠を超えていき、さらには当時の学生運動などにも多大な影響を与えていくようになります。
監督自身は学生運動自体を先導するつもりはなく、ただ面白い映画を作りたかっただけのようですが。
ある時映画祭で海外にいくことになった若松監督は、ついでにイスラエルから激しい攻撃を受けていたパレスチナに降り立ち、そこでの様子をカメラにおさめて報道機関に売ろうとします。
しかし実際に現地でその様子を目の当たりにした監督は報道に売ることをやめ、その映像を元に映画を作ることにします。
こうした動きからだんだんと若松プロは日本赤軍などとも関わっていくようになり、若松プロで脚本をしていた足立正生などは本当に日本赤軍に入ってしまったりということもあったようです。
革命の時代、プロダクションメンバーもその熱にうながされ傾倒していく中で、助監督のめぐみだけは運動より映画作りをやっていくようになります。
若松監督も「めぐみが映画やらなくなったら誰もやらなくなっちゃう」ということでめぐみに映画作りを任せます。
しかし、いまだに作りたい映画がわからないめぐみはただでさえ悩んでいる中で、いつの間にか妊娠していたことが発覚し、さらに悩んでいきます。
革命の熱と青春をまぜこぜにして熱狂しまう若者の裏で、ただ真剣に映画と向き合っためぐみはどんどん苦しくなってしまっているという対比が皮肉的です。
本作が革命自体をただ美化したりせず、あくまでも冷静に捉えていることがわかります。
【考察】「映画の中なら何をやってもいい」が通用しなくなってきている時代
若松監督の作品は警察を殺したり体制をぶち壊したりと、世の中に対する不満や腹が立つようなことを映画の中で解消するという内容が多くあります。
町山さんもおっしゃっていましたが、近年こういった「映画の中なら何をやってもいい」という風潮が弾圧される傾向にあります。
『万引き家族』の公開時に「映画で万引きをするなんてけしからん」という声が上がったことがこの流れを象徴していると思います。
最近でも美術界で同じような事象がありました。
私は、どんな表現でも世に出す権利というのはあってほしいと願います。
ただ世に出したあとで、問題だと感じた人が批判するのも自ら引っ込めるのも自由なので、気に入らない表現に対して何もせずただ耐えなければいけないというのは違うと考えます。
見たくないものは見なければいいし、言論によって批判するというのは自由です。
しかし、権力ましてや暴力で気に入らない表現を弾圧するというのはもう民主主義の社会ではありません。
映画の中で若松監督がめぐみに向かって言っていました。
「ぶっ壊したいものがあったらそれを映画にしろ!」と。
本来表現とはそういうものだったはずなのに、何か自分にとって耳障りのいい害にならないものが表現だと勘違いをしている人が世の中を回すようになってきているということには少し危機感を覚えます。
私個人は低俗なエロには吐き気がするし、差別的な表現は批判もします。でもそれを権力や暴力でねじ伏せることは絶対にやってはいけないと、この映画を見て再確認しました。
『止められるか、俺たちを』はじんわりと胸に残る青春映画
見終わって数時間たったくらいにじんわりと余韻が追いかけてくるような、そんなかけがえのない映画です。汚い大人に惑わされることなく自分たちのやりたいことをやろうとまっすぐに突き進むこの時代の若者たちを見て、今自分がやるべきことはなんなのかということを深く考えさせられました。
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画像出典:公式サイト
浜村満果
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