SF映画『エクス・マキナ』の感想。こんな美しいAIを廃棄できますか?

今回は、映画評論家の町山智浩さんが、2015年4月にTBSラジオ「たまむすび」の中で紹介していた映画『エクス・マキナ』について語りたいと思います。

AI(人工知能)と人間の未来に関する警鐘は常々鳴らされていますが、『エクス・マキナ』は、恋愛要素を取り入れた内容で、観る側の情に訴える作品となっています。やはり人間は、心を持った生き物なのだと改めて感じる映画です。

 

『エクス・マキナ』あらすじ・出演者情報

あらすじ

ケイレブは、「ブルーブック」という検索エンジンのIT企業でプログラマーとして働く青年です。ある日、社内の抽選に当選し、会社のCEOであるネイサンの自宅に招かれることになります。

その場所はヘリコプターで行かなければならないほど山奥で、自然豊かな景観が広がっていました。自宅というより別荘の雰囲気が漂う家に入ると、やってきたケイレブをネイサンが待ち構えていました。ネイサンはブルーブックの創設者であり、幼い時から天才的なプログラミングの才能を発揮して、裕福な暮らしをしていました。

彼はケイレブに帰るまでの1週間、ある検証の手伝いをしてほしいと頼んできます。それは、ネイサンが開発したAIに対して、チューリングテスト(ある機械が人工知能であるかどうかを判定するためのテスト)をする、といったものでした。

監督・キャスト

〈監督〉
・アレックス・ガーランド
〈キャスト〉
・ケイレブ:ドーナル・グリーソン
・エイヴァ:アリシア・アマンダ・ヴィキャンデル
・ネイサン:オスカー・アイザック

主人公を演じたドーナル・グリーソンは、『エクス・マキナ』において座っているシーンも多く、また華奢な肩幅も相まってかなり小柄に見えましたが、実際は185㎝もあるそうです。彼はハリーポッターシリーズで、ハリーの親友ロン・ウィーズリーの兄役ビル・ウィーズリーを演じています。またAIのエイヴァを演じたアリシアは、「リリーのすべて」(レビュー記事はこちら)に出演し、性同一性障害に悩む夫を支える妻の役でアカデミー賞助演女優賞を受賞しています。

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『エクス・マキナ』町山さん解説。主要な登場人物は4人のみ…低予算なカルト映画!

映画評論家の町山さんによると、『エクス・マキナ』はアメリカやイギリスで、当時カルト映画としての評価が高かったそうなんです。

カルト映画とは、熱狂的な少数派から支持される映画のことを指すのですが、『エクス・マキナ』の世界観に病みつきになってしまった「信者」ともいえる人々が居たというわけなんですね~。

私もその一人であるといっても過言ではないほどに、この映画で描かれていない関係性やその後、同じような世界があったらと・・・想像を膨らませ楽しんでいます。

登場人物も4人しかおらず、かなり低予算で制作されている様子がうかがえます。その登場人物の少なさが、山奥の清閑な建物内で、取り返しのつかない何かが起こるのではないか、という独特の不安を映画全体に醸し出しています。

『エクス・マキナ』の語源はラテン語で「機械仕掛けの」という意味で、神という意味のデウスを伴ったデウス・エクス・マキナ「機械仕掛けの神」は、強引なハッピーエンドという意味を指す演劇用語だそうです。

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↓以下ネタバレを含みますのでご注意を!

『エクス・マキナ』AI「エイヴァ」との出会い

ケイレブは、ネイサンから提案されたチューリングテストを実施すること、そして彼の研究に関して他言しないように、誓約書に署名させられます。

チューリングテストを紐解きますと、アラン・チューリングという人物によって考案されたテストで、人間と機械が対面せず会話することにより、会話の相手が本物の人間か機械か判定し、区別ができなければその機械はテストに合格となります。

数学者アラン・チューリングを描いたミステリー映画『イミテーション・ゲーム』のレビューをこちらでしていますので、よかったら合わせてどうぞ!(≫『イミテーション・ゲーム』レビュー

ケイレブは最初から、相手が機械であるということを知らされながらテストに入るので、若干このテストの本来の趣旨とは異なった展開なのですが、初めて会ったAIのエイヴァに心から驚きます。

エイヴァは、顔や手首から下などのごく一部以外はすべてメタルで構成されているAIでした。人間の姿かたちはしていますが、見た目から人間でないことは一目瞭然です。ただ肌は人間そのもの、加えて愛らしい容姿で、エイヴァに夢中になっていく自分をケイレブは止められません。

そりゃそうですよね・・・。例えAIだと聞かされていても、人間と同じように話す好きなアイドルの顔をしたAIがいたら、もう相手がAIだということは忘れますよね・・・。いや、忘れたいかも・・・。テンポよく進むエイヴァとの会話に、この検証を依頼したネイサンの真意を測りかねるケイレブでした。

『エクス・マキナ』突然起こる停電!そこでエイヴァが語る衝撃の一言…

エイヴァとケイレブの会話=セッションは何度か回数が重ねられ、徐々に両者は打ち解けていきます(打ち解けるといっても、相手はAIですが・・・)。

セッションの様子はすべてネイサンがカメラで観察しており、エイヴァから「ネイサンは友達?」と聞かれても、率直な返答ができないケイレブ。

ある時、エイヴァとのセッション中に、突然建物内に停電が発生しました。停電の最中はカメラも回らず、ふと会話が途切れた時にエイヴァがケイレブに一言いいます。

ネイサンはあなたの友達ではない、彼を信じないで」と・・・。

意味が分からず固まったケイレブ、そして停電は回復し、エイヴァは直前の会話などなかったかのように、まるで別の話題が停電中も継続していた様子で、ケイレブに語り掛けてくるのでした。

この一言、ぞっとしますね・・・。

信じたいものと、冷静に考えて信じるべきではないことが、ケイレブの中であやふやになっていくシーンです。対面していてもなお、本当にAIなのか・・・?と疑問が湧いてくるこの状況こそが、新しい意味でのチューリングテストともいえますね。

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『エクス・マキナ』天才プログラマー・ネイサンが、AI創作者としては意外と脇の甘い奴であった

「ブルーブック」という検索エンジンの生みの親という設定のネイサンですから、さぞかし策を練ってケイレブを自宅に招いたのかと思いきや・・・。このオジサン、かなり油断しまくりです。

映画の中で、何度か停電が起こっているにも関わらず、その原因がわからないというネイサン。

そして、アル中・・・。酔っぱらってしまえば、何をされようが気が付きません。

なんだか都合よく「ぬけさく」なネイサンのおかげで、映画はとんでもない方向に進んでいきます。ここは若干ネイサンの設定にそぐわない点で、まあ天才も人間なんだという新しいメッセージを受け取って、納得することにしました。笑

『エクス・マキナ』「機械(AI)」を生み出しているのか「人間」を生み出しているのか…その存在が対等になる場合に、考えなければいけないこと

チューリングテストは、機械が合格か不合格か、どれだけ精密に作られているかをはかるものです。

エイヴァはケイレブに質問します。「このテストに私は合格?失敗したら、廃棄されるの?あなたは失敗しても廃棄されない、どうして私だけ?」と・・・。

非常に根本を突いてくる言葉ですね。人間がAIを開発し続けることで、AIと人間は、老いや排泄など、生物しか経験し得ない事象以外に寸分の差もない関係となってしまうかもしれません。

そうしたとき、人間がAIを管理するという状況は一変し、将来的には「AIの権利」といったことも課題となってくるのではないでしょうか。『エクス・マキナ』では、ただのAIが普及する未来だけではなく、AIと共に生きていく私たちの現実問題も学べる映画となっています。

エイヴァとケイレブの恋愛の先には?

また、AIとの恋愛模様も描かれています。人間同士の恋よりもずっと切ないですね。それは、AIがまだ私たちにとって「なんでも言うことを聞くもの」という意識があるからでしょうか。せめてAIとの恋愛は成就してほしい・・・という考えは、人間の勝手な期待ですね。
SFそして近未来の愛の形も垣間見える作品となっていますので、ぜひ『エクス・マキナ』をご覧になってください。

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画像出典: IMDb “Ex Machina”

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