今回は、「アメリカ流れ者」で町山智浩さんが2019年7月29日に紹介されていた『工作 黒金星と呼ばれた男』の感想です。
平日のお昼に見に行ったのですが、映画館はなかなか混雑していました!
1990年代、韓国の工作員が実業家のふりをして北朝鮮に潜入するという実話を基にした作品ですが、そこには衝撃的な歴史の裏側が存在していたのです…。
目次
『工作 黒金星と呼ばれた男』あらすじ・出演者情報
あらすじ
1990年代の朝鮮半島は北朝鮮の核開発をめぐり緊張が高まっていました。
韓国陸軍に勤めていたパク・ソギョンは国家安全企画部から北朝鮮へ潜入する工作員にスカウトされます。
パクは実業家のふりをして北朝鮮の対外経済委員会の所長であるリ・ミョンウンに接触し、韓国と北朝鮮の共同ビジネスの企画を持ちかけます。
登場人物
リ・ミョンウン – イ・ソンミン
チェ・ハクソン – チョ・ジヌン
チョン・ムテク – チュ・ジフン
金正日 – キ・ジュボン
渋みのある男性俳優揃いです。主要キャラクターには女性ゼロですね。
主演は『国際市場で逢いましょう』や『コクソン / 哭声』などにも出演する韓国の実力派俳優ファン・ジョンミンです。
『工作 黒金星と呼ばれた男』韓国と北朝鮮の複雑な関係を描く、事実に基づいた物語
主人公のパク・ソギョンはコードネーム「黒金星」(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれていた韓国の工作員で、実在する人物です。
北朝鮮とのビジネスを進められるようなパイプを作るため、北京であらゆるエサをまきます。そんな中で対外経済委員会の所長のリ・ミョンウンがエサに引っかかります。
韓国と北朝鮮は友好的だというイメージがなかったので、私はなぜ北朝鮮のような国が韓国とのビジネス話に乗っかるのか不思議に思っていました。
安易に韓国と接触するのはそれこそスパイだった場合のリスクなども伴いますが、北朝鮮も国を維持するには資金が必要で、そのためには外貨を稼がないといけないのです。
そうはいっても過去に韓国から北朝鮮へ派遣したスパイのなかで、帰ってきたものはいません。果たしてパクは無事に帰ることができるのでしょうか…。
以降ネタバレを含みます!未鑑賞の方お気をつけください。
『工作 黒金星と呼ばれた男』見ごたえの頭脳戦!パクのハッタリにひやひやが止まらない・・・。
スパイもののお馴染みのワイヤーアクションなどは一切ありませんが、それ以上にハラハラするシーンがたくさんあります!
パク VS リ所長、チョン課長
パクと接触するリ所長は洞察力に優れた人物で、本格的に契約する前に様々なテストを仕掛けてきます。
パクは完全に商売人になりきり、なんとか国家安全企画部の人間であることを気づかれないようにするのですが、リ所長の気づいてるのか気づいてないのかわからない所作にものすごくハラハラさせられます。
両者一歩も譲らない頭脳戦は見応えがあります。
商談の際にはリ所長に加えて北朝鮮の軍人のチョン課長にも見破られないように気をつけます。
根っからの軍人のチョン課長は初めから「どうせスパイだろ?」と正面から迫ってきます!
そんなストレートな攻撃にも商人のふりをしてヘラヘラとかわすパク。
この辺りの演技力は見事です。
如何にして録音機を持ち込むか?
また、リアリティ溢れるスパイ作戦にも脱帽です。
パクは商談の内容をテープで録音しますが、商談の前に北朝鮮側が身体検査をしてくるので、録音機などを持っていることがバレると敵にスパイだとバレてしまいます。
入り口でチェックを受けるときは何も持たない状態でないといけません。
ではどうやって録音するのでしょうか?
商談の途中で用を足すふりをしてトイレに向かったパクは、なんとトイレタンクに隠していたテープレコーダーを取りに行きます。
事前に隠しておいたのですね!
他の映画でもちょこちょこ見たことのある演出ですが、個人的に大事なものを意外な所に隠すみたいなの好きなんですよね。
この後トイレ休憩が長いのを怪しまれてしまいますが、パクはそこにもまた別の作戦を仕掛けていきます。
頭脳とハッタリを使った見事なスパイ作戦に、テンション上がること間違いなです!
『工作 黒金星と呼ばれた男』北朝鮮の悲惨な現実。飢餓に苦しむ子供達・・・。
そうしてうまく北朝鮮に入国するパク。金正日との緊張感あふれる会談を終え、北朝鮮の街を見たパクは、悲惨な現実と対峙することとなります。
街には飢餓に苦しむ人々があふれていました。
路上でうつむいてじっとしている人、食べ物を盗む子供、死体の山、その中で我を忘れて死体を貪る人々…。
軍事独裁体制を維持している国家の裏には、エグすぎる現実が潜んでいました。
平静を装いつつも敵国の悲惨な状況に言葉を失うパク。
地獄をまのあたりにしたパクは、金正日を倒したいという気持ちと、ビジネスを成功させて北の人々に富を与えたいという気持ちの板挟みの中で葛藤していきます。
『工作 黒金星と呼ばれた男』北朝鮮に武力行使を依頼!?敵国の存在をアピールし、支持を得る腐敗した韓国政府
そんな中で韓国では大統領選が迫り、野党が与党を負かす勢いを見せます。
野党が勝ってしまうとパクの所属する国家安全企画部は廃止になるだろうということで、パクの上司であるチェ・ハクソンはなんと北朝鮮に武力行使の依頼をします。
わざと北朝鮮に韓国を攻撃させ隣国への恐怖心を煽ることで、軍事力の強い与党への支持率をあげようということです。
この話は1990年代なのでそこまで昔の話ではありません。
当時は韓国政府も相当腐っていたのですね…。
北朝鮮としても韓国から報酬として資金を得ることができるので悪い話ではないのです。
この事実には驚愕しました。
自国にとっての敵国を作った方が政府にとって都合がいいということですね。韓国と北朝鮮には裏でそんな繋がりがあったということにも驚きました。
そして選挙のために国内で犠牲を出してもなんとも思わず、パクの身を案じるよりも選挙を優先させる政府に怒りを覚えました。
『工作 黒金星と呼ばれた男』パクとリ所長の友情。両者の「祖国愛」に思ったこと。
韓国と北朝鮮の広告ビジネスを進める中で芽生えてくるパクとリ所長の友情関係も注目です。
敵国同士でありながらお互いに贈り物をしたりと、だんだんとただのビジネスの相手ではなくなっていくのです。
両者の友情を引き裂くクライマックス!
クライマックスはそんな友情を引き裂くような方向に向かっていきます。
政府はパクを裏切り、パクがスパイであることを公表してしまいます。しかもパクが北朝鮮に滞在している間にです!
リ所長はパクの部屋を訪れ銃を突きつけますが、結局パクをにがす手助けをしてしまいます。
リ所長がパクとビジネスを続けた理由とは?
おそらく初めから、リ所長はパクがスパイだということに気が付いていました。
それでもパクとのビジネスを続けたのは、韓国の民主主義的な思想に触れることで北朝鮮に少しでも変わって欲しかったのではないでしょうか。
リ所長は祖国を愛しているがゆえに、今の北朝鮮の体制を心から肯定することはできず、韓国からも学ぶことはあると考えていたのではないでしょうか。
またパクもこんな危険なことに取り組み続けたのは単に韓国を北朝鮮の脅威から守るということだけではなく、北の飢餓に苦しむ人々に何かできないのかと、心の奥底では考えていたのではないでしょうか。
両者が祖国のためを思った行動だったのだと思います。
ただただ自分の国の利益になればなんでもいいだとか、そのためなら隣国は陥れていいだとかいう考えから解き放たれた、二人のそれぞれの「祖国愛」は美しく、誰にも破壊することができないものだと思いました。
本当に国を思うとはどういうことなのか、今こそ我々も考えなければいけないのではないかと思います。
『工作 黒金星と呼ばれた男』心揺さぶる、スリリングな社会派ドラマ!
国同士の複雑な関係と人間ドラマを描いた傑作です。最後にはおもわず目頭が熱くなってしまいました。
やはり韓国映画は映像、演技、脚本など全てにおいてクオリティが高いですね!
歴史的な事実を見事にエンタメとして昇華していますので、歴史的背景がわからなくても楽しめるかと思います。現在絶賛公開中ですので、ぜひチェックしてみてください!
主演ファン・ジョンミン出演作品
画像出典:公式サイト
浜村満果
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