今回は、「アメリカ流れ者」で町山智浩さんが2015年7月14日に紹介されていた『インサイド・ヘッド』の感想です。
ピクサー作品のなかではあまり派手な作品ではないかなあと思いながらついついチェックするのが遅くなってしまいましたが、見てみると初めから最後までボロボロに号泣してしまいました…。
映画批評家の中ではかなり評価の高い本作ですが、町山さんも「全町山が泣いた!」と絶賛していました!
目次
『インサイド・ヘッド』あらすじ・出演者情報
あらすじ
ミネソタ州からカリフォルニア州に引っ越して来た11歳の女の子ライリーは、新しい学校に馴染めるか不安でいっぱいでした。
そんなライリーの頭の中では、ヨロコビ、カナシミ、ムカムカ、イカリ、ビビリの五つの感情たちがライリーの新学期を素敵なものにしようと奮闘していきます。
しかし、転校初日にヨロコビがカナシミを押さえつけた反動でカナシミが暴走し、ライリーは教室で泣き出してしまいます。ヨロコビとカナシミがもみあっているうちに、2人は司令部の外に出てしまい、ライリーは二つの感情を失ってしまいます。
登場人物
カナシミ – フィリス・スミス
ビンボン – リチャード・カインド
ビビリ – ビル・ヘイダー
イカリ – ルイス・ブラック
ムカムカ – ミンディ・カリング
ライリー・アンダーセン – ケイトリン・ディアス
ちなみに、日本語吹き替え版ではヨロコビを竹内結子、カナシミを大竹しのぶ、ビンボンを佐藤二郎が演じています!
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『インサイド・ヘッド』町山さんの解説。監督の実体験。思春期の女の子の、頭の中のおはなし
「インサイド・ヘッド」、要するに思春期の女の子の、頭の中のお話です。
主人公のライリーが住んでいたミネソタ州はどちらかというと田舎の過ごしやすい地域でしたが、引っ越してきたカリフォルニア州はかなり都会です。
両親も新しい街でがんばっていこうとしている中で、ライリーは両親に甘えることができず、不安な気持ちを一人で抱え込んでしまいます。
そんな気持ちが揺れ動く少女の頭の中を具現化したのがこのインサイド・ヘッドという作品です。
この物語は監督のピート・ドクターが、実際に自分の娘が11歳の時に起きた出来事から着想を得ています。
本作の主人公ライリーのように、とても明るい少女だったのにある日突然大人しくなりあまり元気がなくなってしまったそうです。そんな娘とどう接していいのか、娘は今なにを考えているのかと思い悩み、カウンセラーや脳科学者などにも相談し、それを作品に落とし込もうと考えたそうです。
我が子を思いやる行動の末に本作が生まれたのですね。
以下ネタバレを含みますのでご注意ください!
『インサイド・ヘッド』ネガティブなカナシミとポジティブなヨロコビ
「こんな街で新しい友達なんてできないわ…」と常にネガティブなカナシミと、反対に「頑張って新学期を成功させよう!」と意気込むヨロコビ。
全く正反対の2人はライリーの心の光と陰を表しているようです。
またムカムカはお姉さん的な存在で不快感の役割を担っています。イカリはなぜか中年サラリーマンのような見た目でつねに怒っていて、ビビリは怖がりでつねに怯えています。
11歳の少女の頭の中になぜおっさんがいるのかわかりませんが。笑
でもこうやって心にいろんな人格を宿しているのが人間というものなのかもしれませんね。
この個性豊かな5人の感情たちが自分たちそれぞれの思うがままにライリーをコントロールしていくので、当然うまくいきません。
ヨロコビとカナシミがいなくなってからは、残りの三人が二つの感情を表現しようとしますがうまくいかず、ライリーはただただ不機嫌な女の子になってしまいます…。
思春期の子供たちが急に反抗的になったりするのは、こんな風に感情をどうコントロールしていいのかわからないからなのかもしれませんね。
『インサイド・ヘッド』大人になるにつれて忘れていく、空想上の友達
この5人の感情たち以外にもライリーの頭の中には様々なキャラクターが存在しています。
ライリーの空想の友達であるビンボンは、ライリーが幼いころから空想の中で思い浮かべていた親友です。しかし、成長し大人になりかけているライリーはビンボンのことをほとんど忘れてしまっています。
人の記憶は時とともにどんどん入れ替わり、そこで忘れられてしまい犠牲になってしまう記憶もあるということを思い知らされます。
悲しいけれど、それが成長というものなのです。
クライマックスではこのビンボンが大活躍しますのでぜひチェックしてみてください!
『インサイド・ヘッド』ヨロコビだけじゃなくカナシミ(悲しみ)も必要な感情である理由。
この映画を鑑賞し始めて私が疑問に思ったのは、なんで人にはネガティブな感情が必要なのか?
ということです。
この中であれば、ヨロコビがいればそれだけでいいんじゃないかと誰でも思うのではないでしょうか。
カナシミはずっとブーブー言ってるだけで役に立たないし、イカリやムカムカ、ビビリもマイナスなことばかり言っていて、ライリーが幸せな人生を送るという目標からどんどん遠ざかっているように見えます。
しかし、この映画を最後まで見るとその考えはひっくりかえります。
それはあるシーンで明白になります。
カナシミがいる理由、他人の気持ちに寄り添う。
ライリーに忘れられかけて落ち込んでいたビンボンを、ヨロコビは明るい言葉で励まそうとしましたがうまくいきませんでした。
しかし、カナシミが落ち込んでいるビンボンに寄り添い、一緒に悲しんであげるとビンボンは涙を流して心を開きます。
私たち人間は「悲しい」という感情がないと、人の痛みを分かち合ったり、自分の抱えている痛みを理解したりということができないのです。
そうするとやはりここに登場する全ての感情が、ライリーにとって、また私たちに人間にとって必要なものなのだとわかります。
怒りがないと他人との闘争心は生まれないので人間的に成長できなかったり、状況を改善しようという気力がわかなかったりします。
不快感や恐怖心がなければ自分の身に危険が迫っている時に気づくことができず、自分を守ることができません。
人間の感情は決してポジティブなものだけではありませんが、そんな一見ネガティブな感情にもきちんとした役割があります。
そしてそうした様々な感情が複雑に存在していることで、人間の性格にも深みがでてくるのです。
感情に蓋をしないで
そしてもともとカナシミが暴走してしまったのは、ヨロコビがカナシミを押さえつけてしまったことが原因です。感情に蓋をしてしまうと、どこかでパンクしてしまうというのが私たちの脳の構造なのです。
毎日生きていると悲しい気持ちに苛まれてしまうことが多々あります。悲しいニュースに必要以上に感情移入してしまったり、そもそも気が弱かったりメンタルがもろく、自分自身をせめてしまう人もいると思います。
自分はなんでこんなにネガティブなんだろうと思ってしまいますよね。
でもそれは言い換えれば痛みをわかることのできるやさしい人だということにもなります。
そしてそんなネガティブな感情を押さえ込んでしまってはいけません。押さえ込んでパンクする前に、外に出してあげることも必要なのです。
『インサイド・ヘッド』ネガティブな気持ちも肯定してあげよう。やさしい気持ちになれる一作
前向きバンザイ!という主義のアメリカアニメの中ではかなり珍しい繊細な一作だと思います。
「がんばれ!前向きにやろう!ファイト!」とがむしゃらに応援するのではなく、一度立ち止まって、悲しい気持ちと向き合ってみるということを教えてくれます。
そしてそのネガティブな気持ちも必要なものだと気づかせてくれます。子供だけでなく大人が見ても感動してしまうこと間違いなしです。
人間の深く繊細な感情たちを、丁寧に描いた傑作です。
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画像出典:IMDb “Inside Out”
浜村満果
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