今回は、アカデミー賞作品『グリーンブック』の感想です。
町山さんは2018年9月18日のトロント映画祭の注目作品として紹介されました。トロント映画祭は、カンヌが映画見本市に対して、一般観客が審査をするという映画祭。最高賞は「観客賞」というそうです。
注目作は、デイミアン・チャゼル監督の『ファーストマン』とレディーガガ主演の『アリースター誕生』だったのですが、そのとき観客賞を受賞したのが無名だったこの『グリーンブック』!
見て納得です!泣きます!(最重要シーンはネタバレしてませんので大丈夫かと・・・)
目次
『グリーンブック』のあらすじ・主な出演者
ドクター・ドナルド・シャーリー – マハーシャラ・アリ
ドロレス・バレロンガ – リンダ・カーデリーニ
1962年、まだ人種差別が残る公民権前のアメリカ。
ニューヨークに住むイタリア系アメリカ人のトニーは、コンサートホールの用心棒をしていたが改装でしばらく職がない。そんなときに、黒人の天才ピアニスト・ドクがアメリカ南部へコンサートツアーをするためのドライバー(兼用心棒)を探してるという。
期間は2か月。妻も子供もいて、さらにトニーは黒人を差別するようなタイプだが、お金のために引き受けることになった。とくに南部は人種差別の色濃い場所。果たして、無事ツアーを終わらせられるのか?
そんな粗野なトニーと貴族的な暮らししか知らないドクの、笑って泣けるロードムービーです。
これがまさかの実話です!
『グリーンブック』とは、かつての黒人ドライバー向けのガイドブック
タイトルにもなっている「グリーンブック」は、この時代に黒人が安全にドライブするためのガイドブックです。
60年代のアメリカでは、ホテルもレストランも黒人が入っていい場所が限られていました。白人だけ許可されている場所に黒人が入るとトラブルになり、そんなトラブルを避けるためのガイドブックです。
劇中でも、天才ピアニストのドクがいわゆる黒人の立場をよく理解していないため、バーに入ってトラブルに巻き込まれるシーンがありました。
映画内ではこの説明がほぼないので、予備知識としてあった方がいいかもしれません(説明不足だという批判もあったようです)
町山さん解説。ピーター・ファレリー監督はコメディ映画の中で差別をテーマにしてきた。
『グリーンブック』の監督はピーター・ファレリーで、『メリーに首ったけ』を撮った監督です。キャメロン・ディアスが一躍有名になったコメディ映画ですね。
町山さん曰く、彼はコメディ映画ばかり撮ってるらしいですが、ひとつ作品の共通点があって、それは差別を扱っているということ。
『メリーに首ったけ』は、お人よしのメリー(キャメロン・ディアス)にいろんな男性が恋心を寄せるコメディでしたが、その中には身体的障害のある人もいましたよね(ブラックなオチがあるのですが・・・)。
『グリーンブック』でもいろいろ差別問題を入れてきます。しかも、それで笑わせてくるから困ります!
用心棒のトニーが自宅にやってきた黒人配管工が使ったグラスを捨てるシーンから始まり、「中国野郎」とか「ドイツ野郎」とか、ちょっと言えないことまで・・・。
町山さんも憂いてましたが日本映画ではなかなか差別を笑いにするものってないですよね・・・。
追記:「プールのシーン」の意味について
ネタバレにならない程度で書きますが、まだ未見で知りたくない方は読み飛ばしてください。
見た人の多くの人は、「プールのシーン」に関して、「??」となったと思います。私もその一人でした。
ただ、おそらくそういう意味なのではないか?という想像はできます。そのあとに、ドクがトニーに助けられたにもかかわらず珍しく怒ったことから見ても。
「プールのシーン」の意味は、それで合ってると思われます。
町山さんの解説(トロント映画祭のときだったかと)でも、シーンは特定していませんが、「グリーンブックでもセクシャリティーの問題を扱ってる」旨のことを仰っていましたので、間違いないと思います。
『グリーンブック』アカデミー賞後の批判のこと。人種論争、ホワイトスプレイニングなのか?
ホワイトスプレイニング(白人が偉そうに説教すること)
『グリーンブック』がアカデミー賞を取ったことで批判もありました。『ブラック・クランズマン』を撮影したスパイクリー監督が激怒したのはさておき、「ホワイトスプレイニング」(白人が偉そうに説教すること)ということにちょっと言及したいと思います。
≫ ニュース記事「アカデミー賞めぐりまた人種論争 作品賞にスパイク・リー監督憤慨」
『グリーンブック』は差別意識の強い白人(イタリア系)のトニーと、黒人社会に疎い黒人ドクがお互いに理解していくというストーリーになっています。しかも、アメリカ南部ではとくにトニーがドクを助けるというシーンも多くなります。
確かにこのストーリーを見ると建前だけの黒人映画であって、「ホワイトスプレイニング」と言えなくもないかもしれません。
しかし、この『グリーンブック』はまったく立場が逆なんです!
60年代という黒人が白人の使用人だった時代に、白人トニーがセレブの黒人ドクに雇われるという設定です。
白人の立場が弱くなってるというピーター・ファレリー監督の皮肉では?
これは、ピーター・ファレリー監督の皮肉もあるのではないでしょうか?60年代の話ですが、現在の白人の立場を皮肉っていると思うのです。
現在のアメリカは、白人の人口割合が少なくなっています。トランプ大統領が誕生した背景には、有色人種に仕事を奪われている白人が、それを取り戻そうという動きもありました。
アカデミー賞を惜しくも逃したNETFLIX映画『ROMA/ローマ』は、メキシコで撮影された全編スペイン語の映画でした。しかし、これが外国語映画賞だけでなく、本選の作品賞にもノミネートされています。
町山さんの話によると、今アメリカではメキシコ系アメリカ人がすごく増えているそうです。彼らの言語はスペイン語です。英語だけが共通言語ではない時代も近づいています。(こんまりさんの騒動もありましたが)
「ホワイトスプレイニング」どころか、『グリーンブック』には、もはや白人国家アメリカではないという皮肉(現在の真実)も含まれているのではないでしょうか?
『グリーンブック』高貴なドクはケンタッキー・フライド・チキンの食べ方が分からない笑
上のように差別問題を扱ってますが、でも難しいことは何もなくてコメディ映画です!
映画館でも笑ってる人が続出していました笑
いつも考え事をしているピアニストのドクと、しゃべりが止まらないトニー。この2人が一緒にいるだけでもうおかしいです。「ちょっと黙ってくれ」というドクに、トニーは「黙ってくれ」エピソードを話し出す始末ですから笑
とくに笑ってしまったのが、ケンタッキー・フライド・チキンを食べるシーン。
ケンタッキー州に入り、「本場のケンタッキー・フライド・チキンが食べられる!」と喜ぶトニー。チキンを買って車に持ち込むも、ドクは「ナイフとフォークがない。骨はどうする?」と食べようとしない。
それを無理やり渡し、「骨はこうするんだ!」と車から外に投げ捨てました。
意外にもドクも気に入って真似するのですが、ドリンクまで車から投げ捨てるトニーに、バックして拾わせるというオチも・・・笑
追記:「フライドチキン」の歴史的な意味。続・町山さんの解説。
アカデミー賞解説の翌週のラジオ番組で、町山さんが補足的に解説されたので下記のようなツイートをしました。
そういえば、町山さんの話で「フライドチキン」がかつては黒人の代表的な食べ物だったというのにも驚きでした。人種差別の時代には、骨があってナイフとフォークで食べられない部分を使用人の黒人に与えていたとか…。今はすっかり白人カーネルおじさんのイメージですが…。 #グリーンブック #tama954
— RADIYOND(ラジヨンド) (@radiyond) March 7, 2019
そうなんです!
上の笑えるシーンも、ただそれだけではなかったんです。
黒人の代表的な食べ物である「フライドチキン」を白人のトニーが美味しく食べ、逆にドクが食べられないというあべこべなブラックユーモアが含まれていました。
ピーター・ファレリー監督、えぐいことしてきますね・・・。歴史的な意味を知らずに「ケンタッキー・フライド・チキンが食べたくなった」という日本人を、しめしめという顔で見てそうです・・・。
『グリーンブック』南部の黒人たちの現実を見つめるシーンには泣いてしまった。
笑うシーンもあれば、思わず涙が溢れてしまったシーンもあります。
それは、ドクが南部の使用人と思われる黒人たちを見つめるシーン。
広い農地が広がる道で、トニーとドクが乗る車が煙をだして止まってしまいました。
ボンネットを開けて車を直してるトニーと、一方、ただそれを待って車に寄りかかってるだけのドク。しかも、よごれひとつない燕尾服姿で・・・。
ドクの目の前には農地が広がり、そこにはたくさんの使用人の黒人たちが土地を耕していました。泥だらけになりながら。
彼らがトニーとドクの車に気づき、じっと見つめます。
黒人といえども天才ピアニストで、セレブな生活しかしらないドクが、初めてアメリカでの黒人の現実に対面したシーンでした。
これには、ほんと、うっかり涙をこぼしてしまいました・・・。
『グリーンブック』ラストにかけての伏線回収でも泣かせます!
スタインウェイ、手紙、石ころ、銃・・・。
映画を見た人なら、こういう単語だけで、ちょっと涙があふれてしまうのではないでしょうか?これらは物語のキーワードになっているのですが、『グリーンブック』はその伏線回収も見事なんです!
これ以上はネタバレになってしまいますので、ぜひ映画館で確認してみてください!
というわけで、寅さん的な下町感あふれる性格のトニーと、クールな天才ピアニスト・ドクの関係が2か月間のツアーのうちにどうなっていくのか?人間が好きになってしまう、傑作コメディ映画でした。
ちなみに、スタインウェイは高級ピアノです。新品のものの桁数に驚愕ですよ・・・。
画像出典:IMDb “Green Book”
Cody
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