今回は、町山さんが2013年8月13日にTBSラジオ・たまむすびで紹介していた映画『エリジウム』について語りたいと思います。
SFでありながら、現代の貧困や人種差別といった内容を描いている作品となっています。
B級感もありツッコミポイントも紹介していますが、サクッと見られる作品ですのでぜひ見て判断してほしいです!笑
目次
『エリジウム』あらすじ・出演者情報
監督・出演者
監督
・ニール・ブロムカンプ
出演
・マックス:マット・デイモン
・デラコート:ジョディ・フォスター
・フレイ:アリシー・ブラガ
・クルーガー:シャールト・コプリー
あらすじ
時は2154年、地球は環境汚染により人間の住みやすい場所ではなくなっていました。
一部の富裕層たちは、宇宙にスペースコロニー『エリジウム』を作り、そこに移住して何不自由ない生活を送っています。エリジウムには医療ポッドというものがあり、そこに入ればどんな病気も瞬時に治してくれるのでした。
富裕層の生活を支えているのは、下界とも言える地球で働く人々でした。主人公マックスは、エリジウムの住人を守り地球の人々を監視するロボットである「ドロイド」が作られている工場で働いていました。
ある日、怪我をして病院に行ったマックスは、幼馴染で看護師のフレイと再会します。幸せな時間もつかの間、工場での事故で、マックスは致死量の放射線を浴びてしまいます。
5日といわれた余命を何としても延ばすべく、エリジウムの医療ポッドへ向かう計画を立て始めるのですが・・・。
町山さん解説。ニール・ブロムカンプ監督が表現した、現実にある貧困や差別
『エリジウム』の監督は、『第9地区』という映画も制作された、ニール・ブロムカンプ監督です。
『第9地区』は、南アフリカに突如宇宙船が現れ、その故障により難民状態となってしまったエイリアンたちを、人間が監視し、生活を共にする・・・といったストーリーです。
始めは何とか共存していこうとするのですが、外見もグロテスクなエイリアンたちを、次第に人間は疎ましく感じ始めます。「エビ」という呼び名で差別をしたり、別の場所に追いやろうとするのですが、町山さんいわくこの展開は、アパルトヘイトという人種隔離政策の様子を模しているというのです。
ニール・ブロムカンプ監督はまさに、そのアパルトヘイトの時代の南アフリカを生きた方だそうで、そうした不平等な社会の政策を、SFに置き換えて世界に発信したんですね。そしてその精神は『エリジウム』にも受け継がれており、巨大な宇宙ステーションで暮らす一部の富裕層と、廃れ行く地球で貧しい生活を送る多くの人々という、世界における貧富の差が表現された映画となっています。そうした視点を持っているだけで、全く別のメッセージを作品から感じることができますね。
↓以下ネタバレを含みますのでご注意!
医療の発達した『エリジウム』に走り込む姿は、まるでアジアの某国を彷彿と・・・
貧富の差を描いたエリジウムですが、まさに風刺と感じるシーンが冒頭からあります。
医療ポッドに走る、貧困層の親子
冒頭で、3機の飛行船に乗った地球に住む人々が、エリジウムに乗り込むシーンがあります。
そのうち2機は、エリジウムから雇われた民間協力局員である傭兵のクルーガーに追撃されます。しかし1機はその攻撃を逃れ、なんとかエリジウムへとたどり着くのです。
(地球ーエリジウム間の移動が何とも簡単に実行されているような気はしますが、そこはまあ未来の設定なので、たとえ民間の飛行機でもかなり丈夫に作られているのでしょう、そう思うことにします。)
とにかく1機たどり着き、降りてすぐにある場所を目指しながら、必死に走る親子がいました。何とかたどり着いた先は、エリジウムの住人が住む家の中にある医療ポッドでした。
あらすじでも紹介したように、入るだけで病気や身体の損傷は何でも治してくれる、魔法のような医療機器です。ただし、治療対象として機械が認識してくれるのはエリジウムの住人のみ。何とか地球からエリジウムにたどり着いた人々はみな、エリジウムの住人とみなされるIDを腕に印字していました。女の子は骨折など全ての治療を無事終えますが、直後に捉えられてしまいます。
脱北者を彷彿とさせてしまった
医療ポッドは、初めて映画を観た時、かなり新鮮に感じました。現在医療に携わる仕事をしている私ですが、このような機械がいつか完成してしまう日がくるのでしょうか?全く想像もつきませんし、現時点では不可能であると断言したいほどに、医療というのは複雑でままならないものですが、娘を何とか救いたい母親が医療ポッドへ一目散するシーンは胸にぐっとくるものがありました。
また、何としてもエリジウムに辿り着こうという強い執念を持った地球の人々の姿は、北の隔離された領域に住む方々が、お国から逃れようと命を懸ける場面を彷彿とさせました。亡命する、そして移民となるといった社会問題も風刺しているのでしょうか?
『エリジウム』のツッコミポイントを紹介!笑
社会風刺を描いたSF映画『エリジウム』ですが、見てみるとツッコミポイントもたくさんあります。こちらもぜひ楽しんでほしいところです笑
【必見ツッコミポイント1】機械にされるマックスがダサい!もうちょっとシンプルなデザインにできなかったかな?笑
自身が働く工場で致死量の放射線を浴びてしまったマックス。助かるためにはエリジウムの医療ポッドに行くしかありません。
どうせ死んでしまうなら、命を懸けるべき行為である「エリジウムへの侵入」を図ろうと考えたのです。
しかし誰でも行ける場所ではなく、闇商人のスパイダーとある条件で取り引きをかわし、エリジウムへの切符を手に入れようとします。それは、身体を改造してコンピューター化し、エリジウムの住人の脳内データを入手すること。
スパイダーはそこに、エリジウムに関する貴重な情報が入っているはずだというのです。マックスに選択肢はなく、ボディと頭部に機械を埋め込まれるのですが、まあその機械が・・・ダサい。笑
かなり未来の設定なのに、このレベル!?
まあ民間のお金がない人々が開発した機械だということを加味しても、ダサい、というより全く機能性があるようには見えず・・・マット・デイモンが急に、ジャングルジムに挟まって出られなくなったオッサンにしか見えなくなってしまった瞬間・・・(見てもらえると、言いたいことが伝わるかと思います笑)。
この部分は突っ込まざるをえませんでした。
やはりSFは、主役の見た目がキマってないと物語が途端に陳腐になってしまう気がします。この映画のマット・デイモンは、もう少し見た目に貫禄を持たせるべきでしたね。最後までチンピラのような雰囲気が抜けていなかった気がします。
【必見ツッコミポイント2】フレイとマックスの過去があまりにも薄く、2人の関係に感情移入できない!笑
幼馴染のフレイとマックス。2人に強い絆があるのかと思いきや、もう何年振りというくらいの出会いだったはずの再会シーンもあっけなく終了。とてもスマートとは言えない誘い方でフレイを食事に連れ出そうとするマックスや、乗り気なんだかそうでないのか曖昧なフレイ。全く盛り上がる要素がありません。笑
かと思いきや、過去の想いは変わらない、と語り始めたり…SFにしては少し短めの映画でしたので、ヒロインとの深イイエピソードがあまり盛り込めなかったのでしょうか。登場人物たちの関係性が、制作者が表現したいと意図しているであろう状態よりも、観る側にとって希薄に映りました。
『エリジウム』皆が平等は有り得ない、結局は誰かが上に立つ
ニール・ブロムカンプ監督の描きたいことは、よくわかります。むしろ誰もがわかっている、世界にはびこり続ける問題です。
しかし、動かしがたい現実がそこにあるのも事実だと思うのです。物理的にも範囲が決まっている『エリジウム』に、地球の全人民が住むのは無理でしょう。
結末は映画をぜひ観ていただきたいのですが、この物語は移住を目的としているのか、誰もが医療ポッドを使用できるようにしたいのか・・・訴えたいことはわかりますが、解決策は提示されていないように私は感じました。
富裕層が手を差し伸べるシーンは一度もなく、あくまでマックスはじめ貧しい者が闘いによって富を得ようとする構造は変わらない、つまり両者互いに譲らない、ということを描いてしまっていた気がします。それもひとつのメッセージ・世界の今の変わらない現実であると、映画を観て改めて学びました。
『エリジウム』下克上が好きな方!自ら運命を切り開こうとする物語
昔も今もなくならない人種差別や貧富の差が描かれている、という視点で観ると、世界のそうした問題に目を向けずにはいられません。しかし単純にSF作品として、飽きずに長すぎない展開を楽しめる作品となっています。
端的に言ってしまうと「下剋上」といえるシーンがメインとなっていますが、自分が変えようと思えば、運命や生きる場所はいくらでも選べるのだということに気がつかされます。未来をつかみ取る雑草魂を感じられる力強いSF映画となっていますので、ぜひ色々な視点を持って観ていただきたいと思います!
マット・デイモン出演映画おすすめ7選
ニール・ブロムカンプ監督作品
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画像出典: IMDb “Elysium”
HAYA
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