2015年1月20日放送の「たまむすび」で紹介された、「グローリー/明日への行進」を観ました。
この時はまだ公開前で邦題が決まっておらず、原題の「セルマ(Selma)」と紹介されています。「Selma」とはアメリカ南部のアラバマ州にある町の名前で、キング牧師が行進を始めた場所です。
1960年代というTV映像が力を持った時代。キング牧師の公民権運動にとっても、それは例外ではなかったんですね。
そして、この映画はキング牧師を主人公にした初めての映画とのこと。なぜ今まで映画にできなかったのでしょうか?
そんなところも紹介します。
目次
『グローリー/明日への行進』あらすじ・出演者
あらすじ
1965年3月7日、黒人の選挙権を求め、マーティン・ルーサー・キング牧師と525人の黒人たちが、アラバマ州セルマを歩き出した。
あくまで非暴力を貫くデモ行進であったが、黒人差別を徹底する白人知事の元、州警察の鎮圧と言う暴力に、わずか6ブロックで妨げられてしまう。
しかしその映像は、“血の日曜日事件”として全米のニュースに流れ、それを観た人たちの人種をまたぎ、「同士」として心を一つにすることとなる。
2週間後、再び抗議のデモ行進が計画されたが・・・・。
出演者情報
トム・ウィルキンソン・・・・・・・(リンドン・B・ジョンソン)
カルメン・イジョゴ・・・・・・・・(コレッタ・スコット・キング)
ジョヴァンニ・リビシ・・・・・・・(リー・C・ホワイト)
アレッサンドロ・ニヴォラ・・・・・(ジョン・ドア)
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『グローリー/明日への行進』町山さん解説。女性監督が成し遂げたこと
放送された日が、1月20日と言うことで、キング牧師の誕生日(1月15日)に近かったことと「セルマの行進」が行われたのが、ちょうど50年前(放送時2015年)の1965年だったと言うことで、非常にタイムリーだったのか、町山さんのお話も熱が入っていました。
その日のGoogleの検索ページの画像も、キング牧師と仲間たちがセルマの行進をしている画像が貼られていたくらいで、そこから映画の話となりました。
キング牧師は、あの有名な演説「I have a dream」で、ご存じの方もいらっしゃると思います。
彼は実に300年以上続いた、「黒人差別」解決への扉を開いた人でしたが、惜しくも1968年に暗殺されました。「セルマの行進」を行った3年後です。
キング牧師を主人公にした映画は作れなかった。その理由。
それだけ偉大な功績を残した有名な人でありながら、没後40年、セルマからは50年経っても、彼を主人公にした映画は制作されなかったそうです。
理由は、キング牧師の演説は全て遺族が管理しており、しかも、複数いる遺族全員に許可を得なければいけないらしく、一度スピルバーグ監督がその難関を突破していますが、その時は、脚本を担当したオリバー・ストーンが余りにも牧師の人間的な部分を引き出した結果、結局遺族の許可が下りずに頓挫しています。
キング牧師の演説をすべて類語に変えた
しかし、この映画の監督、エヴァ・デュバーネイはそれをやり遂げました!43歳の黒人女性である彼女が、初めてキング牧師を主人公にした映画を制作したのです。
なぜ、そんなことが可能だったかと言うと、演説を一言一句、遺族の許可が必要ならば、全文類語に変えて、強行突破しましたから。
それこそ偉業ですね!
ここで町山さんがとても強くおっしゃっていたのは、「女性の方が突破力がある」と言うこと。
「50年間、男性がこねくりまわして作れなかった映画を、40そこそこの女性が一気に強行突破」したことと、この映画の冒頭、投票所へ足を運ぶ黒人女性や、初めてバスの白人席に座った黒人女性のことを繋げてのことです。
時代を超えても、ブレない強さを女性は持っているのかもしれませんね。
『グローリー/明日への行進』セルマの行進は、メディアを引き寄せるパフォーマンスとなった!
「セルマへの行進」の発端は、アメリカの南部で長く続いている「黒人差別」ですが、その主な原因は、黒人の「投票権」でした。
南北戦争で勝利した北軍によって、黒人にも様々な権利が与えられたわけですが、その中の一つが「投票権」です。
もともと南部には、奴隷として連れてこられた黒人が、白人の数を上回っていました。なので、北軍管理下では、黒人の投票数が圧倒的で、黒人議員が多数生まれたのです。
しかし、やがて北軍が監視をやめた後、南部の白人たちが、黒人の権利を奪うため、「投票法」と言うのを定めて、結局、黒人は投票出来なくなりました。
この映画の冒頭でも、黒人女性が投票所へ行き、「選挙人登録」と言う、投票をするのに必要な権利を申請しますが、白人の管理官に、様々な質問を「間違うまで」されて、結局登録できずに引き下がるという場面があります。
この永遠のいたちごっこを止めるために、「セルマの行進」は行われたのです。そしてこの「行進」は、明らかに今までとは違う道を歩むことになるのです。
TV映像の力に気づいていたキング牧師
1960年代という時代、ベトナム戦争を挟んで、メディアの技術も発達し、カメラがとらえた映像がTVを通してお茶の間にダイレクトに流れ出した時代でもありました。
キング牧師がやった革命の多くは、この「TV映像に残る」と言う手段があったからこそ、成し遂げられたのだと言っても過言ではないかもしれません。
「セルマの行進」は、キング牧師とその側近たちにより、白人達の暴力が「全て」TVを通して、アメリカ人達の家庭へ流されました。そのことがきっかけとなり、立ち上がった自由主義の人たちが、再び「セルマの行進」を行います。そこには、白人も黒人も、学者も聖職者も、男も女も、志を同じにする人たちが集いました。
これこそ、キング牧師が望んでいた「結果」だったのではないか。何となく背筋が凍る感じがしました。
つまり、キング牧師はメディアの力をあらかじめ知っていて、利用したように見えたからです。
行進が一大イベントになった
ネタバレですが、この二回目の行進は、途中、白人の警備隊と向き合ったとき、警備隊が道を開けて、そこを行進が通らないといけないとなった時、行くか行かないか迷ったキング牧師が、祈りをささげた後、結局踵を返すという、信念をくじいたような結果になります。
当然、そこに集った全員が同じように引き返すことになるのですが、今度は、そこに参加していたという理由で、白人が白人に殺されるという事件も起きるのです。
そこにまたメディアの批判が寄せられ、三回目は、当時大スターだった歌手のジミー・デイヴィス・Jr.とか、ハリー・ベラフォンテなども参加し、多くの取材陣も訪れ、アメリカ全体がTVで見守っていると言う、ある意味戒厳令のような形で、皆が歌いながら橋をわたりました。
一大イベントになったのです。
映像に全てが映し出された結果、恐らく世論は、このイベントを無視できなかったではないでしょうか。
『グローリー/明日への行進』キング牧師は、明らかに「ただの人間」だった!
この映画は、キング牧師が南部の黒人たちを救うために起こした軌跡と、それが成功するまでの彼の苦悩が描かれています。
表向きは「公民権運動に貢献し、暗殺によって命を落とした英雄」と称えられているキング牧師ですが、この時、彼の私生活は破綻しかかっていました。
近年、FBIがキング牧師を盗聴していたことで話題になりましたが、運動を続ける彼の妻に対して、浮気している内容が録音されているテープを送ったり、実際に「子供を殺す」と脅迫電話がかかってきたりしたことで、彼は妻から「運動をやめてほしい」と懇願されます。
また、同じ黒人運動家マルコムXのような過激派からは、非暴力を批判され、多くの仲間が去っていくなど、窮地に立たされています。
町山さんは、「この映画は、キング牧師の悩みや弱さ、人間的な面を初めて描いた映画」と仰っていました。
映画を見ていくと、小さな人間に感じるキング牧師
確かに映画を観ていると、だんだんキング牧師が小さく感じられてきます。
彼の苦悩をよそに、膨らんでいく黒人活動家たちの力と分裂。非暴力故に殺されていく罪ない黒人たち。それを止めるために必死に頑張っている間に、壊れていく家庭。それなのに、遅々として進まない、大統領との会話。
映画の彼は、その波の中で一生懸命細い枝につかまって、なんとか流されないように、息ができるように頑張っているようにも見えました。
『グローリー/明日への行進』はメディアの力を伝えた映画なのではないか?
そして、もう一つ興味深かったのは、映画の最後にこの行進に関わった人たちの「その後」がテロップで流された時です。
その中には、政治家となったもの、白人でありながら「白人至上主義団体KKK(クー・クラックス・クラン)」に殺された女性など、いかにこの「行進」がそれぞれの人生に大きくかかわったかを伝えるものでしたが、その一列にキング牧師のことも紹介され、終わっています。
特に特別な映像もなくです。
それを観たとき、ハッとしました。
何故なら、この映画が本当に伝えたかったことは、キング牧師個人のことではなく、「メディアが、ただの人間たちを英雄にした」と言うことではないかと思ったからです。
もし、一度目の行進がTV放映されてなかったら、ここまで周知の事実となったでしょうか?白人たちの口伝えで事件が伝えられただけで、もしかしたら、黒人たちは相変わらず口を閉ざして、あやふやに終わったかもしれません。
生々しい実写が心を打ったから、人種に関係なく人々は動いた。
「セルマの行進」は、そういう意味でも、文字通り「新しい時代」を切り開いた「行進」となったのだと感じました。
今まさに、震えながら「強さ」を熱望している人に観てほしい!
南部の黒人たちが長年戦ってきたことは、差別と共に「知られていない」ことではなかったでしょうか。自分たちがどんな酷い差別を受けているのか、奴隷として連れてこられた先祖が何を残していったのか、語る文字も知らずに歌い続けてきた彼らの「代弁者」が必要でした。
この映画を見ると、キング牧師は60年代と言う変革の時代に立ち上がった「代弁者」でしたが、「英雄」ではありませんでした。弱いからこそ、必死で「強さ」にしがみついたような気がするのです。
今の生活や状況に不安を抱えている人に、この映画はおすすめです。「弱い自分」をさらけ出す背中を押してくれる作品です。手を差し伸べてくれる誰かを引き寄せたとき、「弱さ」は「強さ」へと成長していくと思うのです。
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前川クニコ
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