2016年6月に放送の「たまむすび」で紹介された「AMY」を観ました。
27歳で急逝した歌姫エイミー・ワインハウスのドキュメンタリー映画です。彼女のドラッグと酒と、愛に溺れた短い生涯を、すごく長い時間をかけて観たような錯覚に陥りました。
町山さんは彼女を「生贄」と言いました。いったいどんな人生だったのでしょうか?
目次
ドキュメンタリー映画『AMY エイミー』あらすじ・出演者
あらすじ
1983年、イギリスのユダヤ系の家庭に生まれたエイミーは、10代でレコード会社と契約を結び、弱冠20歳で完成させたデビュー・アルバム『Frank』で大きな評価を得ました。
続くセカンド・アルバム『Back To Black』が全世界1200万枚のセールスを記録。シングル「Rehab」も大ヒットし、2008年のグラミー賞で5部門受賞を成し遂げます。
半面、夫となったブレイクがきっかけて、ドラッグと酒にハマり、エイミーは段々人生を短くしていきます。
出演者情報
ミチェル・ワインハウス (父)
ジャニス・ワインハウス(母)
ジュリエット・アシュビー (親友)
ローレン・ギルバート (親友)
ニック・シマンスキー (最初のマネージャー)
タイラー・ジェイムズ (シンガー・親友)
レイ・コズバート (最後のマネージャー)
ブレイク・フィールダー(愛した男)
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映画『AMY エイミー』町山さん解説。エイミー・ワインハウスは生贄だった!
この時の放送で、町山さんの話は、アメリカの移民問題から始まりました。
中々映画の話にならないので、不思議に思っていたのですが、実は、エイミー・ワインハウスはロシヤ系ユダヤ人の移民の子供です。そのことにも結び付けたかったではないかと思いました。
彼女の歌を町山さんが聴いたとき、最初、黒人かと思ったくらいに、ソウルフルだったそうです。でも、彼女はれっきとした白人で、そして魂で歌ったのでした。
実際に彼女の歌を聴くと、町山さんが感じたことと同じことを、恐らく感じます。ソウル!
作詞作曲をする彼女の歌は、ほとんどが、彼女の実生活を扱っており、町山さん曰くの「身を切って流した血」で曲は書かれました。
なぜ、そんなにも自分を痛めつけながら、彼女は曲を書いて、歌い上げたのでしょうか?
町山さんはこう言いました。
「エイミーは生贄だった。」
ドキッとしました。ものすごく納得したからです。
彼女は、「魂の歌」を創るために、自分自身を犠牲にした。私にもそうとしか思えませんでした。
映画『AMY エイミー』「痛み」を愛することで歌に命を吹き込む。愛した男ブレイクの存在。
16歳で、ジャズシンガーとしてのキャリアをスタートさせたエイミーは、20歳の時、アイランドレコードからデビュー・シングル『Stronger Than Me』とデビュー・アルバム『Frank』をリリース。
これがきっかけで、メジャーへの道に、文字通り彗星のごとく躍り出ていきます。
そして22歳でブレイク・フィールダーと言う一人の男に出会った時から、運命の歯車がきしみ始めるのです。
このブレイクと言う男。一言でいうと「悪い男」。素行が悪いというだけではありません。
一番悪いのは、恐らくエイミーと似ていたこと。
エイミーとブレイクの共通点 – 痛みで癒す幼少期
これは、映画の中で、実際ブレイクも話しています。
彼自身、幼少の頃自傷癖があり、それは母から継父を遠ざけてほしかったからと言っています。
一方、エイミーが誰とでも寝るのは、彼女の父親が幼いころ家を出たからだと。
二人とも、傷を痛みで癒す「子供」でありました。
エイミーはブレイクとの愛に溺れていきました。
彼女の「Back To Black」と言う大ヒット曲は、「彼があたしの元を去ったから、あたしはブラックに戻るわ」と言う歌詞。
「ブラック」はヘロインのことです。
エイミーの歌が「傷みを愛すること」によって命が吹き込まれるのであれば、当然、エイミーはブレイクに執着し、愛し続けるしかなかったのかもしれません。
町山さんの言った「生贄」という意味が思い出されました。
映画『AMY エイミー』トニー・ベネットとのデュエット。「父性」に苛まれた人生に光が差した崇高な時間。
27歳での心臓発作での死。それまでのドラッグと酒、ブレイクとの愛憎劇。そんなことばかりがエイミーの人生に在ったわけではありません。
彼女の音楽人生は、その才能故に、様々なアーティストから賞賛を受け、幾度もセッションをしています。
エイミーが欲した父性とジャズ界の大御所トニー・ベネット
そして、この映画の中でも忘れられない名場面となっているのが、ジャズ界の大御所、トニー・ベネット氏とのコラボレーション曲「Body and Soul」のレコーディング・シーン。
これは、彼のアルバム『Duets II』のレコーディングに参加した時のもので、「若い才能ある歌手」とデュエットしたいとの、ベネット氏の要望で実現しました。
ずっとトニー・ベネットのファンだったエイミーが、この敬愛するシンガーの前で、本当に真摯に、まるで歌を始めて習う子供のように、一生懸命歌い、迷い、彼の胸を借りて、音楽を創り上げる、素晴らしい姿を見せています。
歌手のドキュメンタリー映画ですから、当然、歌っている姿は全編出てきますが、私は、このシーンが一番好きでした。
才能ある後輩を包み込むような、トニー・ベネットの懐の深さも感動でした。
ダメ父親への許し
エイミーは、父親のミッチェルにずいぶん苦しめられます。
幼少の頃に、若い女と一緒に家から出ていったその時から、エイミーはずっと父親を探していたように思います。
後に、エイミーの栄光のおこぼれに預かるように戻ってきた父親のことを、彼女は受け入れます。
この父親は、本当に絵にかいたようなダメ親で、例えば、病んだ彼女をツアーに出そうとしたり、休暇で休んでいるのに、そこに撮影クルーを連れてきたり。
観ているこちらも本当に腹が立ってくる男ですが、エイミーは全部受け入れ、許すのです。
きっと、トニー・ベネットとの時間は、エイミーが本当に望んでいた、父親との時間だったかもしれません。
そう思うと、彼女の才能が、「傷」でしか、命を得られなかったことが、切なくて、堪らなくなるのです。
『Duets II』にはエイミー・ワインハウスのほか、レディー・ガガなども参加しています。
エイミー・ワインハウスの歌は「弱さ」を許してくれる。
エイミー・ワインハウスのような人生を歩みたい、と思う人はいないかもしれません。
類まれな音楽の才能を持ち、誰しもの心を揺さぶる声で歌う。この歌姫の細い、小さな身体と心を、もしかしたら、エイミー自身がもっと抱きしめてあげていたら・・・・そう思ってしまいます。
もし、今、自分の弱さを隠すために、何かに頼ろうとしているのなら、是非彼女の歌を聴いてほしい。「傷み」の生贄になった彼女の歌が、きっとあなたの弱さを許してくれるでしょう。それが、彼女の残した軌跡なのだと思うのです。
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前川クニコ
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